「乳幼児にインフルエンザワクチンは効かないから打たない方がいい」といった記載を時々見かけます。また、小児科でも知識がアップデートされていない場合、昔の言い伝えをそのまま伝え続ける方もいて、やや問題があると思っています。
今回のこの研究では、3歳以下の乳幼児を対象に、インフルエンザワクチンの有効性を確認しています。
- 24ヶ月以上であれば、インフルエンザワクチンの有効性はありそう
- 6〜24ヶ月はデータ不足で追加で検討が必要
- 発熱、嘔吐、不機嫌、下痢といった副反応は起こりうる
研究の方法
今回の研究はオーストラリアとニュージーランドで行われたRCTになります。
対象となったのは、
- 6ヶ月〜48ヶ月
- 免疫抑制・慢性疾患がない
- 卵アレルギーの既往がない
- Guillain-Barre症候群の既往がない
- 以前にインフルやA型肝炎ワクチンを接種していない
などが該当しています。
治療について
治療は、
- インフルエンザワクチン(Trivalent Influenza Vaccine: TIV)
- A型肝炎ワクチン
の2回投与を、ランダムに割りつけています。
アウトカムについて
アウトカムに関しては、6ヶ月ほど経過を追って
- インフルエンザ感染(鼻汁などからPCRで検出)
- 副反応の報告例
などを見ています。
研究結果と考察
最終的に57人の小児がインフルエンザワクチンと、67人がコントロール(A型肝炎ワクチン)でした。
ワクチン | TIV | HAV |
年齢, 平均 (SD) | 2.24 (0.97) | 2.33 (1.02) |
男女 | 57.9% | 64.2% |
全体の結果
ワクチン | TIV | HAV |
N | 57 | 67 |
Flu (+) | 1 (1.8%) |
9 (13.4%) |
RD | -11.7% [-20.5%, -2.8%] | |
NNT | 9 | |
RR | 0.13 [0.017, 0.999] | |
VE | 87% [0–98%] |
*VE = (1–RR) x 100%で計算
全体として、インフルエンザ感染のリスクは確実に下がりそうな印象ですね。
9人に接種すると1人予防できる計算になります。VE (vaccine efficacy)も87%です。
24〜48ヶ月
ワクチン | TIV | HAV |
N | 30 | 43 |
Flu (+) | 0 (0%) |
8 (18.6%) |
RD | -18.6% [-30.2%, -7.0%] | |
NNT | 6 | |
RR | 0 [N/A] | |
VE | 100% [16–100%] |
半分以上のお子さんは24ヶ月以上でした。この年齢層の有効性はありそうな印象ですね。
6人に接種すると1人予防できる計算になります。VE (vaccine efficacy)も100%です。
6〜24ヶ月
ワクチン | TIV | HAV |
N | 27 | 24 |
Flu (+) | 1 (3.7%) |
1 (4.2%) |
RD | -0.5% [-11.2%, 10.2%] | |
NNT | 217 | |
RR | 0.88 [0.058, 13.4] | |
VE | 11% [-1245–94%] |
24ヶ月未満のお子さんは少ないですね。そもそもインフルエンザに罹患した小児が両グループで1人ずつしかいないので、推定がかなり不安定です。
著者らも論文中で述べていますが、パワー不足ですね。
副作用について
ワクチン | TIV | HAV |
発熱 (> 38度) | ||
1回目 | 3.6% | 11.9% |
2回目 | 8.0% | 5.3% |
不機嫌 | ||
1回目 | 46.4% | 38.8% |
2回目 | 33.3% | 37.5% |
傾眠 | ||
1回目 | 19.6% | 23.9% |
2回目 | 17.6% | 17.9% |
食欲低下 | ||
1回目 | 26.8% | 29.9% |
2回目 | 29.4% | 14.3% |
嘔吐 | ||
1回目 | 10.7% | 16.4% |
2回目 | 3.9% | 1.8% |
下痢 | ||
1回目 | 19.6% | 10.4% |
2回目 | 11.8% | 0% |
発熱は思ったよりも少なくて、5%くらいですね。熱性けいれんを起こした症例はいなかったようですね。
意外だったのは、下痢の頻度の高さでしょうか。不機嫌や食欲低下はよく見られる現象かと思います。
患者さんに説明する際のデータとしても最適ですね。
感想と考察
6〜48ヶ月の乳幼児を対象にインフルエンザワクチンの有効性を確認していますが。24〜48ヶ月には効果は確実にありそうな印象ですが、24ヶ月未満に関してはデータが不十分で、この研究のみで効果あり/なしを議論するのは難しいでしょう。
ただ、24ヶ月未満のお子さんのデータを蓄積できているので、他の研究結果とも照らし合わせてみたいですね。
まとめ
6〜48ヶ月の乳幼児を対象にインフルエンザワクチンの有効性を確認していますが。24〜48ヶ月には効果は確実にありそうな印象ですが、24ヶ月未満に関してはデータが不十分です。
ワクチン接種後に、発熱5%、不機嫌 40%、傾眠18%、食欲低下 27%、嘔吐6%、下痢15%ほどを認めています。
インフルエンザワクチンは…
- 24ヶ月以上の幼児に効果はありそう
- 24ヶ月未満は、データ不足で追加検討が必要
- ワクチン接種後に、発熱、不機嫌、食欲低下、下痢などを認めることがある