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2歳未満の乳幼児にインフルエンザワクチンは有効か?[観察研究&オーストラリア編]

ネット上、ツイッター上、実臨床など、様々な場面で「インフルエンザワクチンは乳幼児に接種させても意味がない」という医師や医療関係者がいるようです。

近年、これに対して否定的な論文が複数出てきています。今回は、オーストラリアで4シーズンにわたって行われた観察研究の結果をみてみましょう。

ポイントを先に述べてしまいましょう。

インフルエンザワクチンの研究のポイント

  •  2008-2012年のオーストラリアの研究
  •  2歳未満にも効きそう
  •  ワクチンの有効性は、やや過大評価された研究かも
マミー
マミー
この間受診したクリニックで、乳幼児はインフルエンザワクチンが効かないから、接種しても意味がないと言われてしまいました。

Dr.KID
Dr.KID
現在は、様々な研究が行われ、有効性は示唆されています。研究結果を参照してみましょう。

 

研究の方法

今回の研究は、2008-12年にかけて行われた観察研究になります。

対象となったのは、

  •  この病院の救急外来に受診
  •  インフルエンザ症状あり:発熱+呼吸器症状
  •  免疫不全など基礎疾患なし

などが該当しています。

ワクチン接種歴について

ワクチン接種歴は、

  •  保護者への質問票
  •  ワクチン登録

など複数の方法で確認しています。

アウトカムについて

アウトカムに関しては、

  •  インフルエンザ感染の有無(PCRやウイルス分離)

を見ています。

Test-negative designでは、インフルエンザ陽性を「case」、陰性を「control」と定義しています。「control」に関しては、インフルエンザ陰性全て、他のウイルス検査で陽性の2通りで解析したようです。

ワクチンの有効性(VE; vaccine efficacy)は、「1 – OR」で推定しています。

Dr.KID
Dr.KID
このデザインの問題点は、考察で記載します。

研究結果と考察

最終的に研究対象となったのは2001人で、このうち389人(20.4%)がインフルエンザに感染していました。

インフルエンザ以外のウイルスが検出されたのは、1134人(59.6%)になります。

年齢は1.9歳、喘息や慢性肺疾患、神経疾患をもつ小児も含まれています。

 ワクチン接種状況について

ワクチン接種の状況ですが、

  •  2回:15.5% (295/1903)
  •  1回:8.4% (161/1903)

でした。

 検出されたウイルスについて

検出されたウイルスは以下の通りでした

ウイルス N
インフルエンザ 389
他のウイルス 1134
  picornavirus 673
  RS virus 312
  parainfluenza virus 193
  adenobirus 157
  bocavirus 126
  coronavirus  61

お馴染みの呼吸器系のウイルスが多いです。

 ワクチンの有効性について

こちらが原著論文のTable 3になります。

ワクチンの有効性は一番右になりますが、低くて30%、最大で100%となっています。

交絡因子を対処した結果は以下の通りです。

全体としては有効性は65%ほど、2歳未満に関しては、85%でした。

感想と考察で記載しますが、残念ながらこの結果は過大評価されている可能性があります。

 感想と考察

2000-10年前後から、生後6〜23ヶ月の小児に対するインフルエンザ予防接種を推奨する団体が増えてきています。

団体
2003 アメリカ ACIP
2007 フィンランド  
2013 イギリス UK joint comittee
2013 オーストラリア ATAG

国によって微妙に方針は異なるようです。例えば、アメリカは「6ヶ月以降の全ての小児」といっていますが、イギリスでは「6ヶ月以降で、インフルエンザ感染によって重症化をきたす基礎疾患のある小児」を優先的に打つように推奨しています。

今回の研究は、この方針をサポートするものではあるものの、選択バイアスが入り込んでいる可能性が濃厚です。

問題点は、病院のみで行われた研究という点です。Test-negative controlと聞くと、何か洗練された手法のように感じてしまうかもしれませんが、単にcase-control studyを真似たものです。
御察しの方がいるかもしれませんが、病院のみのデータでcase-control studyは組まない方が良いことが多いです。

Case-control studyでは、コントロールをどのように選ぶかが肝です。コントロールは「ケースを起こしうる人たち」です。今回の研究でいえば、インフルエンザに罹患して受診した人たちですが、普通は風邪をひいたら救急外来に飛び込むのではなく、近くのかかりつけ医でしょう。つまり、病院に集まってきた人たちというのは、特殊な症例や事情のある方が多いです。コントロールが、この母集団を反映しているとは考えづらく、バイアスが混入しています。おそらく、予防的な方向に過大評価していることが懸念されます。

最近行われたRCTと見比べても、VEが86%とかなり高い値です。有効性を頭ごなしに否定するわけではありませんが、やや有効性は盛られている可能性が高いです。

Dr.KID
Dr.KID
Case-control studyでは、コントロールがどのように決められたのかが研究の柱になります。

まとめ

今回のオーストラリアの研究では、インフルエンザワクチンは2歳未満の小児に対しても有効性がありそうでした。

その一方で、研究デザインの問題もあり、ワクチンの有効性はやや過大評価されている可能性があります。他の研究結果も参照する必要があるでしょう。

マミー
マミー
2歳未満でも有効性はありそうですが、少し過大評価された研究ということですか?

Dr.KID
Dr.KID
その通りです。理想的な研究方法とは少し異なるので、その点は差し引いて考える必要があります。

まとめ

2008-2012年のオーストラリアの研究では、インフルエンザワクチンは…

  •  2歳未満にも効きそう
  •  ワクチンの有効性は、やや過大評価された研究かも

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。