Cancer Epidemiology (がんの疫学)

Cancer Epidemiology (がんの疫学)(23)| 職業や環境と発がんについて

前回はアルコールとがんについて解説してきました。
今回は、職業や環境とがんをトピックにできればと思います。

職業による暴露について

現代の先進国では職業と発がんの疫学研究が多数行われたのもあり、様々な危険因子が取り除かれています。

職業による暴露が、発がんにどのくらい影響しているのかを調査した報告は複数あり、以下の通りです:

報告者 寄与率
Doll & Peto US 1970s 4%
WHO フランス 2000 男:3-4%
女:< 1%
Parkin イギリス 2010 男:4-5%
女:< 1%
Schottenfield US 2000-10 男:3-5%
女:< 1%

男性の方が職業的な暴露による、発がんの寄与率は高い傾向にあります。

職業暴露と発がんリスクで報告された例は以下の通りです:

がん 物質 職業
膀胱 Benzidine
Arsenic など
ゴムやレザー
煙突掃除など
腎臓 カドミウム
殺虫剤など
塗装、金属
石油やプラスチック産業
喉頭 アスベスト
塗料の蒸気
石油、ゴム産業など
白血病 ホルムアルデヒド
ベンゼン
エチレン
殺虫剤など
ゴム、石油精製など
肝臓 ヒ素
Vinyl chloride
Aflatoxin
プラスチック産業
ラドン
受動喫煙
アスベスト
ヒ素など
ゴム、建築産業など
リンパ腫 ベンゼン
エチレン
殺虫剤など
ゴム産業
塗料
髪の塗料
中皮腫 アスベスト 鉱山、鉄道
建築
工場
鼻腔 Mustard gas
ニッケルなど
家具、ニッケル精製など
皮膚 皮膚
石炭
パラフィンなど
日光
煙突掃除
屋外での仕事など

職業暴露とがんを予防する方法や調査

職業的な暴露と発がんを予防する方法ですが、大きく分けて3つあります:

  1.  規制でコントロールする
  2.  労働者を教育する
  3.  常にモニタリングして注意を払う

有害な物質の場合、法律などでコントロールが必要になることもあります。
また、有害物質ではあるが、必要な防御措置を行えば暴露せずにすみ、かつ大体の製品がない場合は、労働者に適切な防御方法を指導・教育をして、暴露を最小限に止めることも可能です。
また、教育の効果が続いているか、集団的に見て特定の疾患リスクが上昇していないかをモニタリングしつつ注意を払う必要があります。

職業コホートの問題点

職業コホートの問題点は行くかあり、その1つが追跡不能(lost to follow-up)です。
通常、職業コホートをする場合、一定のインターバルで調査をするため、その間にいなくなってしまう方が出てきます。
理由によりけりですが、途中で研究からドロップアウトした人が、アウトカムと関連していたりすると、選択バイアスが生じることがあります。

もう1つの問題として、健康労働者効果(Healthy worker effect:HWE)があります。これは、労働者は、非労働者より健康であることが多いため、研究に参加することで一般の母集団と異なるケースがあります。
HWEは選択バイアスと言われていましたが、近年はどちらかというと交絡という見方もされています。

選択バイアスを構造から理解すれば、暗記する必要はありませんよ選択バイアスというと、皆さんはどんなことをイメージするでしょうか? 疫学の教科書を開くと、  脱落者によるバイアス(Loss ...

大気汚染と発がんについて

次に、大気汚染 (Air pollution)と発がんについて簡単に解説していこうと思います。

室内の大気汚染で最も多いのはタバコによる受動喫煙で、肺癌との関連はご存知の方が多いでしょう。
喫煙は14の癌と関連していることが報告されています。

大気汚染と健康について

世界的に見て、92%の人口は、WHOが定義する上限を超えた大気質の場所に住んでいる。
700万人の若年死亡(premature death)は大気汚染と関連しているとも報告されています。

2012年のWHOの報告によると、このうち430万人は室内の大気汚染によると推定されています。内訳は以下の通りです:

% 疾患
34% 脳卒中
26% 心疾患
22% COPD
12% 小児の急性下気道炎
6% 肺ガン

肺ガンに関しては、16%ほどが室内の大気汚染(つまりほとんどが受動喫煙)によって生じていると推定されているようです。

おわりに

今回は職業や大気汚染と発がんについて簡単に解説してきました。

次回は、スクリーニングについて簡単に解説していければと思います。

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。