今回は、2003/04と2004/05のシーズンでアメリカで行われた研究結果を紹介しようと思います。インフルエンザワクチンが乳幼児に有効かというテーマで行われています。
この研究のユニークな点は、case-cohort designを使用している点です。Case-control studyの亜型になりますが、少し特殊な研究デザインなので、その点を少し解説できればと思います。
- 2003/04と2004/05のシーズンに行われた研究
- 6-23ヶ月におけるワクチンの有効性を評価
- 研究手法にやや難があり、結果の解釈が困難
研究の方法
今回の研究で、対象となったのは、
- 2003/04と2004/05シーズンのインフルエンザ
- NY, テネシー、シンシナチ、オハイオなどに居住
- 特定の病院の救急外来、入院患者
です。
ケースは、救急外来や入院患者を含め、インフルエンザと診断された患者になります。
コントロールは、同施設にアクセスした患者のコホートからランダムに選別されています。
さらに、インフルエンザ患者が生じたタイミング、つまりケースが生じたタイミングで、コントロールを選ぶ方法を取っています。これをrisk set samplingと言います。
今回の研究は、Case-cohortというデザインを利用して、さらにrisk-set samplingを付け足した、少し複雑な研究デザインと言えます。
ワクチンについて
ワクチンは、
- Full: 2回接種 or 昨シーズンに接種 + 今シーズンは1回
- Partial: 1回のみ or スケジュール通りでない2回接種
- なし
のいずれかをランダムに投与しています。
アウトカムの比較について
アウトカムの比較に関しては、
- Cox proportional hazard modelを利用して、
- adjusted Hazard Ratio (HR)を計算し、
- Vaccine efficacy (VE) = (1 – HR) x 100%
を計算しています。。
研究結果と考察
最終的に6-23ヶ月に関しては、以下の通りでした:
Case | Control | |
入院/ER | 141 | 4519 |
外来 | 77 | 619 |
ワクチンの有効性について: 入院・ER受診患者
ワクチンの有効性に関しては、以下の通りでした:
03/04 | VE | 95%CI |
Full | -42% | -300% to 50% |
Partial | 29% | -50% to 70% |
04/05 | ||
Full | 53% | -40% to 80% |
Partial | -2% | -100% to 50% |
ケースを入院・ER受診患者とすると、03/04シーズンはFull vaccineで有効性は認めませんでしたが、04/05に関しては有効性が示唆される内容です。ただし、95%信頼区間は非常に広く、かなり不正確な推定になります。
ワクチンの有効性について: 外来患者
ワクチンの有効性に関しては、以下の通りでした:
03/04 | VE | 95%CI |
Full | 68% | -160% to 100% |
Partial | 39% | -80% to 80% |
04/05 | ||
Full | -40% | -230% to 40% |
Partial | -79% | -280% to 20% |
一般外来患者とすると、03/04シーズンはFull vaccineで有効性を認め、04/05に関しては有効性が否定される内容です。ただし、こちらも95%信頼区間は非常に広く、かなり不正確な推定になります。
感想と考察
入院・ER | 外来 | |
03/04 | -42% | 68% |
04/05 | 53% | -40% |
正直なところ、このデータを見ても、この解析を見ても意味が分からないという感想です。1つずつ説明していきましょう。
インフルエンザワクチンの有効性を見る場合、インフルエンザ発症そのものの予防効果を見るのが目的になると思います。この場合、ケースはインフルエンザ発症者全てからサンプルするのがよく、今回のように入院・外来で分ける意義が私には感じられませんでした。
また、case-control studyの亜型で、case-cohort sampleやrisk-set samplingがありますが、今回はこれを2つも組み合わせて使っています。
両方使ってダメなわけではないのかもしれませんが、なぜわざわざこのようなややこしい方法を取ったのかも、正直、疑問点として残っています。やや疫学手法に酔いしれすぎているようにも感じます。
さらに、コントロールの選別です。今回の研究はcase-cohortと言ってはいるものの、コントロールは「インフルエンザを起こしうる母集団」からサンプルされたとはやや言いづらく、結局は受診した患者、つまりhospital based case-control studyです。必ずしも選択バイアスを招くわけではありませんが、今回のコントロールが本当に一般の母集団を反映しているのかは、少し疑問でした。
まとめ
今回の研究では、2003-2005にかけて、乳幼児においてインフルエンザワクチンの有効性を検証しています。
コントロールのサンプル方法など疑問点が多いのが難点でした。
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