今回は国内で行われたインフルエンザワクチンの有効性を検証した研究の第2弾です。
2013-16年にかけてデータを蓄積して報告されています。2歳以下の小児を中心に解説していこうと思います。
- 2013/16に日本で行われた研究
- 12-23ヶ月に関しては、予防効果が50%前後でありそう
- 6-11ヶ月に関しては、A型10%、B型30%ほど
- 追加検証は必要
研究の方法
今回の研究は、国内の22施設で行われた観察研究です。主には2015-16年のデータを使用していますが、2012-15年のデータも合わせて報告しています。
ケースコントロール研究の方式で行われており(厳密には異なりますが)、ケースはインフルエンザ陽性例、コントロールは外来受診してインフルエンザの検査をした方としています。
インフルエンザ検査に関しては、迅速検査が行われており、感度 88-100%、特異度 94-100%を想定しているようです。
ワクチン接種について
ワクチン接種は、
- 2−4週間の間隔を空けて
- 2回接種
した人を「ワクチン接種あり」と定義しています。2015/16に関しては、4価のインフルエンザワクチンとなります。
ワクチン効果について
ワクチン効果(VE)に関しては
- Odds ratio(OR)を計算
- (1 – OR) x 100% = VE
としています。効果推定として、インフルエンザ感染の予防、入院率の予防を見ています。ORの推定には、logistic regressionが使用され、合併症や居住地区、発症月などを対処しているようです。
研究結果と考察
2015/16シーズンですが、2歳以下の患者の分布は以下の通りでした:
インフル | あり | なし |
6-11ヶ月 | 58 | 125 |
1-2歳 | 303 | 716 |
2015/16のワクチン効果について
6-11ヶ月児のワクチン効果は以下の通りでした:
インフル | VE |
全て | 18% (-103 to 67) |
A | 10% (-152 to 68) |
B | 44% (-169 ot 89) |
インフルA型に関してはほとんど効果はありませんでしたが、B型に関しては44%ほど認めています。一方で、95%CIは非常に広く、かなり不正確な推定になります。サンプル数がもう少し必要なのでしょう。
1-2歳に関しては、以下の通りです:
インフル | VE |
全て | 66% (54 to 74) |
A | 73% (62 to 81) |
B | 42% (9 ot 63) |
1歳未満よりVEは高い値になっています。
2013-16に関して
こちらは2013-16における有効性を評価しています:
6-11ヶ月に関しては以下の通りです
インフル | VE | 95%CI |
全て | 15% | -38 to 48 |
A | 12% | -49 to 48 |
B | 30% | -113 to 77 |
同じような傾向でして、B型のVEは30%ほどでしたが、A型はほとんど有効性はなさそうです。一方で、こちらの解析も95%CIが非常に広いです。
別の年齢も見てみましょう:
1歳 | VE | 95%CI |
全て | 59% | 48 to 67 |
A | 61% | 49 to 69 |
B | 42% | 9 to 63 |
6ヶ月から23ヶ月 | VE | 95%CI |
全て | 53% | 42 to 61 |
A | 54% | 43 to 63 |
B | 48% | 23 to 65 |
1〜2歳 | VE | 95%CI |
全て | 59% | 52 to 65 |
A | 63% | 56 to 69 |
B | 43% | 24 to 58 |
1歳以降のデータが入ってくると、A型に対してもVEは急に高くなりますね。
感想と考察
1歳以降に関してはワクチンの予防効果は確実にありそうな印象でした。
一方で、6ー11ヶ月に関しては、B型でも30%ほど、A型は10%と非常に低い値になっています。ただ、サンプル数が相対的に少ないため、非常に95%CIが広くなっています。この年齢層に関しては、追加検証が必要でしょう。(著者らは「有効性なし」と断定していますが、統計学的有意差の有無でジャッジすべきではないでしょう。ダイコトマニアの問題は↓↓)
もう1つの問題点としては、コントロールの集め方です。とある診療所に受診して検査陽性をケース、陰性をコントロールとするhospital/clinic case-control studyですが、この方式は選択バイアスを誘導しやすいことで有名です(疫学者の中では)。
コントロールが、一般母集団を反映していれば問題ないのですが、「受診」した集団がこれを反映できているのか、判然としない気がしています。
それを意識してか、2010年代の中国の類似の研究は、この”test negative design”というのを使用せず、きちんとしたcase control 研究を使用しています。つまり、ケースはインフルエンザ陽性、コントロールは同じ地域、年齢でマッチした集団からランダムに選んで、ワクチンの有無を評価する方式です。
ただ、日本の場合、ワクチン接種は任意であり、中国の研究のようにレジストリーに登録されているわけではないので、研究しようとすると、かなり煩雑になってしまう可能性があります。日本において疫学研究のインフラが不十分なのが分かってしまいますが、モデル地区みたいなのを作って調査をしてみても良いかもしれませんね。
近々、test negative designの問題点を記事にできたらと考えています。
まとめ
今回の日本の研究ですが、インフルエンザワクチンは1歳以上の小児には効果がありそうな印象でした。一方で、6-11ヶ月に関しては、効果が低く推定されましたが、相対的にサンプル数が少なく、コントロールの選別にも課題が残っているので、追加検証が必要だと思います。
インフルエンザワクチンについて…
- 2013/16に日本で行われた研究
- 12-23ヶ月に関しては、予防効果が50%前後でありそう
- 6-11ヶ月に関しては、A型10%、B型30%ほど
- 追加検証は必要