- 下痢があるのですが、ミルクを薄めた方がいいですか?
とご相談されることがあります。また、小児を診療する医療者でも「下痢の時は、ミルクを薄めましょう」と指導する方もいるようです。
確かに、急性胃腸炎のお子さんで、一部は二次性に乳糖不耐症を起こしてしまうことがあります。あるいは、たんぱく質の吸収不良を起こしてしまう方もいます。このため、「薄めるように」と言っているのかもしれません。
しかし、不必要にミルクを薄めると、必要なエネルギーが摂取できなくなります。前回もいくつかの論文を紹介してきましたが、下痢の時に母乳をやめて経口補水液を投与すると、かえって下痢によって消失した体重の戻りが悪くなってしまいます。
今回は、乳幼児の下痢において、ミルクを薄めた場合と、そうでない場合に、どのような影響があったのかを研究した論文を見つけたので、そちらを紹介します。
- 急性胃腸炎による下痢に対して、ミルクの再開を遅らせるべきか、ミルクを薄めるべきかを検討
- ミルク再開を遅らせたり、薄めても、あまりメリットはなさそう
- 飲める状況であれば、通常の濃度のミルクを投与も選択肢
研究の概要
今回はイギリスで行われたランダム化比較試験です。対象は、生後6週〜4歳、下痢は5日以内、軽度脱水(<5%)の乳幼児となります。
治療
治療は、
- 最初から通常濃度のミルクを投与 (16人)
- 経口補水液を与え、その後に通常濃度のミルクを投与 (16人)
- 経口補水液を与え、8時間毎に1/4、2/4, 3/4, 4/4濃度のミルクを投与 (14人)
のいずれかをランダムに投与しています。
3つ目のグループは、最初はミルクを薄くして、徐々に通常の濃度に戻していく戦略ですね。
結果
研究結果の要約は以下の通りでした:
- 入院日数はどの治療法でもほとんど変わらない(3.5日ほど)
- 嘔吐は最初から通常濃度のミルクの方が多かったが、治療の変更をしないといけないほど、ひどい嘔吐はなかった
以上から、ミルクの投与を遅らせたり、わざわざ薄くするメリットはあまりなさそうな印象でした。
感想と考察
今回の研究では、乳幼児が下痢の時に、ミルクの投与を遅くしたり、薄くしたりすることにメリットがあるか否かを検討した研究です。乳幼児が急性胃腸炎による下痢を認めていても、飲める状況であればそのままの濃度で良さそうなデータと思います。
この研究では体重の推移や、下痢の回数など、臨床的に気になる点が評価されていなかったのは少し残念な印象でした。
まとめ
乳幼児が下痢の時に、ミルクの投与を遅くしたり、薄くしたりすることにメリットがあるか否かを検討した研究です。
乳幼児が急性胃腸炎による下痢を認めていても、脱水がひどくなく、飲める状況であればそのままの濃度のミルクで良さそうなデータと思います。
- 急性胃腸炎による下痢に対して、ミルクの再開を遅らせるべきか、ミルクを薄めるべきかを検討
- ミルク再開を遅らせたり、薄めても、あまりメリットはなさそう
- 飲める状況であれば、通常の濃度のミルクを投与も選択肢
Dr. KIDの書籍(医学書)
小児のかぜ薬のエビデンスについて、システマティックレビューとメタ解析の結果を中心に解説しています。
また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
1冊で2度美味しい本です:
(2024/11/21 01:00:58時点 Amazon調べ-詳細)
小児の診療に関わる医療者に広く読んでいただければと思います。
新刊(医学書):小児の抗菌薬のエビデンス
こちらは、私が3年間かかわってきた小児の抗菌薬の適正使用を行なった研究から生まれた書籍です。
日本の小児において、現在の抗菌薬の使用状況の何が問題で、どのようなエビデンスを知れば、実際の診療に変化をもたらせるのかを、小児感染症のエキスパートの先生と一緒に議論しながら生まれた書籍です。
Noteもやっています