今回は、新型コロナウイルスに感染した小児2143例の研究結果を紹介させていただきます。
疑い症例も多いですが、この規模で行われた研究はこれまでになく、非常に重要な報告であると思います。
- 新型コロナウイルス感染症の確定・疑い2143例の分析
- 乳幼児の方が重症化のリスクは高いかもしれない
- データに問題がありそうで、重症化リスクは過剰に推定されていると思う
感染者の推移 (3/17):
- 世界:177,421人
- 中国:80,881人
- 日本:829人
- 韓国:8320人
- イタリア:27,980人
- イラン:14,991人
イタリアとイランがすごい勢いで増えていいます。気づけば、ヨーロッパの国々も増加傾向にあります。ドイツが6000名前後、スペインが9000名くらいに増加しています。
アメリカも患者数が徐々に増え、4000人に近づいています。
小児の大規模調査について
新しい小児の大規模調査を発見したので、簡単にまとめようと思います。
小児(18歳未満)でのCOVID-19の2143例(うち34.1%は検査での確定例)を分析した中国での研究:
全体の90%以上は無症状・軽症・中等症のいずれかであり, 一般的に成人よりも重症度は低くなりやすそうだった.大規模な研究でも基本的にはこれまでと同様の結果が得られたようです.
https://t.co/3JT0tlJ90q— NS@小児科医 (@nuno40801) March 17, 2020
NS先生(@nuno40801)が最初にツイートしています(いつも情報提供をしていただき、ありがとうございます)。
概要
今回は、新型コロナウイルスに感染した小児2143例の研究です。
患者の分布や重症化のリスクを検討しています。
年齢分布
まずは年齢の分布から見ていきましょう。
確定 | 疑い | 合計 | |
年齢 | |||
< 1 | 86 | 293 | 379 |
1-5 | 137 | 356 | 493 |
6-10 | 171 | 352 | 523 |
11-15 | 180 | 233 | 413 |
> 15 | 157 | 178 | 335 |
合計 | 731 | 1412 | 2143 |
かなり偏りがある分布ですね。例えば、10歳以下ですと確定症例と疑い症例の比は大体1:2〜1:3くらいです。一方で、10歳を超えると1:1.5前後くらいでしょうか。
著者らの疑いの定義を見てみましょう。
まず、COVID-19にかかる可能性から、high, medium, low riskの3つのエリアに分類しています。
High riskの地域の場合は、
- 発熱 or 呼吸症状 or 消化器症状 or 倦怠感
- 白血球は正常〜低下 + リンパ球の上昇 or CRPの上昇
- 胸部レントゲンの異常所見
のうち、2つ以上を従う場合は「疑い症例」と認定しています。
Medium or Low riskの地域の場合は、
- インフルエンザや他の呼吸器疾患を除外
して、同じような基準を設けていたようです。
重症度に関して
重症度の表は以下の通りです
症例 | 確定 | 疑い |
重症度 | ||
無症状 | 94 (12.9%) |
0 (0%) |
軽症 | 315 (43.1%) |
776 (55%) |
中等症 | 300 (41.0%) |
531 (37.6%) |
重症 | 18 (2.5%) |
94 (6.7%) |
最重症 | 3 (0.4%) |
10 (0.7%) |
欠損値 | 1 | 1 |
合計 | 731 | 1412 |
個人的には一癖あるデータだと思いました。
無症状の確定症例が多いのは、おそらくですが、家族内感染でスクリーニング的に検査を受けた小児が多いからではないでしょうか。過去の症例集積などでも、家族内感染があり、スクリーニング的に検査を受けて陽性だった報告が多数あります。
重症例で疑い症例の割合が高い理由がよく分からないです。通常、この時期に重症化すれば検査をして原因を突き止めたくなるのでしょうが、疑いのままの重症例が94 + 10例もあります。
説明 | |
無症状 | 症状:なし 画像検査:陰性 RT-PCR: 陽性 |
軽症 | 上気道症状 聴診:異常なし |
中等症 | 肺炎あり、呼吸苦なし 画像検査:異常あり |
重症 | 呼吸 +/- 消化器症状 1週間ほどで進行 SpO2 < 92% |
最重症 | 呼吸不全 ショック、脳症、心筋炎など |
年齢別の重症度の割合は?
症状 | なし (%) |
軽〜中等 (%) |
重症〜 (%) |
年齢 (N) |
|||
< 1 (379) |
7 (1.8%) |
332 (87.6%) |
40 (10.6%) |
1-5 (493) |
15 (3%) |
442 (89.6%) |
36 (7.3%) |
6-10 (521) |
30 (5.8%) |
469 (90%) |
22 (4.2%) |
11-15 (413) |
27 (6.5%) |
369 (89.3%) |
17 (4.1%) |
> 15 (335) |
15 (4.5%) |
310 (92.5%) |
10 (3.0%) |
合計 (2141) |
94 (4.4%) |
1920 (89.7%) |
125 (5.8%) |
重症の割合を、95%CIをつけて図にしてみましょう。
低年齢の方が、重症化の割合は多い傾向にあるのが分かります(が、かなり問題のあるデータだと思います)。
この研究の問題点
重症度の割合の数字は鵜呑みにしない方が良いと思います。
理由の1つは、分母の数字がそもそも受診して検査された患者がベースだからです。実は感染していたけれども、軽症 or 無症状だから医療機関に受診しなかった人はかなりいるのではないでしょうか。
非常にシンプルにすると上のようなイメージです。医療機関に受診し診断が下された人は、全体の感染者の一部になります。このため、このまま重症患者の割合を算出すると、かなり過剰に推定することになります。
もう1つの問題は、「疑い」症例の存在です。しかも、重症例〜最重症例では、疑い症例の方が多い点です。外来で検査がパンクしたのか、事情はよく分かりませんが、重症化の割合を算出する上で、分母・分子のうち分子に当たる症例数も不確実性がついています。上の図で言えば、黒塗りされた部分の大きさが正しいのかも不明です。
特に、乳幼児の症例で重症例となると、他の呼吸器感染症との区別は臨床的には難しいと思います(RSウイルス、インフルエンザなど)。
感想と考察
これだけの大きなデータですから、それだけで価値はあるとは思いますが、データをそのまま鵜呑みにしない方が良いかと思いました。重症化の割合はもう少し低いのではないでしょうか。
乳幼児の方が重症化の割合が「相対的に」高いのは、おそらくそうだとは思ってはいます。小児を診療したことがある方なら、ほぼ説明は必要はないと思いますが、感染症に弱い年齢は圧倒的に乳幼児・新生児です。
ただこの論文のデータからは不確実性が拭えず、例えば学童と比較してどのくらい高いかは、そういった比較や推定は難しいように思います。
これまでの新型コロナウイルス感染症の報告を追跡していて、小児科的には困った発言をSNSやネット上の記事もありました。
中には「小児は重症化しない」「重症化した症例はない」とまで断言している方も見受けられたからです(感染症が専門家の方でも、一部、そう発言される方もいました)。2月の上旬から重症例の報告は散見されており「普通に小児の例を知らないだけなのでは?」と私は思っていました。
普通に感染症に罹患して、小児が重症化しないと言うのはありえないです。例えば、風邪にかかったとして、一定数は喘息発作を起こしますし、細気管支炎・気管支炎・肺炎となり入院が必要となるケースもあります。
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)が騒動になって1ヶ月以上になりますが、小児に関しては、徐々に情報が増えてきた印象です。現時点で分かっていることをまとめると、以下の通りです:
まとめ
今回は、
- 中国と日本の感染者数の推移
- 小児の約2000例の解析結果
についてアップデートさせていただきました。
引き続き、新しい情報、過去の文献を読み込んだら、報告させてもらおうと思います。
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また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
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