- 下痢の時、ミルクを薄めてください
という指導もあるようです。
ミルク(人工乳)は濃いから、薄めることで吸収しやすくし、腸への負担を和らげようという考えのもと、このような指導がされていることもあるようです。
一方で、この指導の根拠は乏しく、薄めることで、下痢によって減少した体重の回復が遅れる可能性もあります。
今回は、この点を触れた論文の解説をしようと思います。
ミルクを薄めても、
- 下痢の回数は減らず
- 入院日数も短縮せず
- 必要なエネルギーが摂取できず、体重の回復が遅れる
傾向にありました。
近年の報告をみると、下痢の時に、ミルクを薄める必要はないと考えられています。
研究の概要
今回は、小児の下痢において、ミルクを薄めるべきか、加水分解乳を使用すべきかを検討した研究になります。
イングランドで、1986年1月〜7月までに行われたランダム化比較試験(RCT)になります。
対象患者
対象となったのは、
- 9ヶ月未満
- 軽症の胃腸炎
が対象です。
治療
治療は、24時間の脱水の補正を行なった後に
- ミルクを薄め、4日で元の濃さに戻す
- 通常のミルク
- 加水分解乳
をランダムにわりつけています。
国内のものですと、加水分解乳はE赤ちゃんなどが該当します(推奨ではありません)
研究結果
結果は以下の通りでした
1. 下痢の頻度
下痢頻度は、初日は
- ミルクを薄める:4回
- 通常のミルク: 3.7回
- 加水分解乳: 4.3回
でした。
4日目になると、
- ミルクを薄める:2.2回
- 通常のミルク: 1.6回
- 加水分解乳: 2.5回
となります。
2. 体重について
体重の変化ですが
- ミルクを薄める:-0.35 kg (SD, 0.5)
- 通常のミルク: +0.65 kg (SD, 0.6)
- 加水分解乳: +0.15 kg (SD, 0.2)
ミルクを薄めた場合、エネルギー摂取量が低下するため、減ってしまいました。
3. 入院期間について
- ミルクを薄める:4日 (SD, 0.2)
- 通常のミルク: 3.6日 (SD, 0.6)
- 加水分解乳: 3.5日 (SD, 0.4)
でした。ほとんど差はなさそうですね。
感想と考察
今回の研究に関しては、小児が下痢をしたときに、あえてミルクを薄めたり、ミルクを変更したりという指導もあるようです。
ミルクを薄めても、下痢の回数や入院日数は減らず、むしろ体重回復の点からいえば、デメリットしかなさそうです。
まとめ
今回は、乳児の下痢に対して、ミルクを薄めるべきかを検討しています。
ミルクを薄めても、下痢の回数は減らず、入院日数も短縮せず、むしろ必要なエネルギーが摂取できず、体重の回復が遅れる傾向にありました。
類似の研究は多数出ているので、今後も報告していければと思います。
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