今回は、ニュージーランドから報告された、手洗いの感染症予防効果を検証した研究をみていきましょう。
今回は、「流水と石けんの手洗いのみ」vs. 「アルコール手指消毒液を追加」の比較になります。
先にこの研究の結論とポイントから述べましょう。
- 手洗いに手指消毒液を追加するべきか検証
- 学校においては、予防の付加的な効果はなかった。
Uhari, et al, An open randomized controlled trial of infection prevention in child day-care centers.
アルコール手指消毒剤が感染症の予防効果にどのくらいあるか検証した研究はたくさんあります。
研究の概要
背景
学校の環境によって感染症の伝播のしやすさは異なる。そして、その環境の差異は、小児が経験する感染症の発生率に大きく影響を与えるである可能性が高い。
本研究は、ニュージーランドの小学校の教室に、通常の手指衛生だけでなく、手指消毒剤を追加することが、病欠を減少させるか検討した。
方法
クラスターランダム化試験は68の小学校で実施された。
まず、参加した学校に出席した全ての子供(5歳から11歳)はクラス内手指衛生教育を受けた。
そして、介入群の学校は、冬学期(4月27日から2009年9月25日まで)に、教室でアルコール手指消毒剤が設置されています。
一方で、対照群の学校は手指衛生教育のみを受けた。
主要評価項目は、保護者への電話を介して聴取した欠席数であった。
副次評価項目は、特定の疾患による欠席数(呼吸器感染症または胃腸炎)、病欠の期間と疾患の欠席エピソード、およびその後に家庭内で同様の病気になったエピソード数(小児または成人)であった。
さらに、アルコール手指消毒による皮膚の副作用も調べた。
結果
子どもたち、学校の管理職員、学校連絡研究助手は、グループの割り当てに盲目ではなかった。追跡調査した小児の転帰評価者には、グループへの割り付けは行われなかった。
手指消毒群1,142人と対照群1,301人を追跡調査しています。
子供1人100日あたりの病気による欠席率は同様であった(それぞれ1.21および0.94、発生率比1.06、95% CI 1.18~1.16)。
教室でのアルコール手指消毒剤の設置は、これらの子供たちの呼吸器や胃腸疾患による欠席率、病気や病気欠勤の期間、あるいは他の家族の感染率を減らすのには効果的ではありませんでした。
皮膚の副作用の割合は同様であった(手指消毒剤10.4%対対照10.3%、リスク比1.01、95% CI 0.78〜1.30)。
著者らの考察
アルコール手指消毒の追加は、欠席の減少効果はなさそうな結果でした。
この研究の限界は、この研究がインフルエンザ・パンデミックに行われた点です。
手指衛生に関する公衆衛生上のメッセージとして広く伝えられていました。このため、学校においても子供が手指衛生に対する意識が強く、かえって消毒剤の追加効果を減少させたかもしれない。
介入効果の正確な推定値は得られたものの、計画されたサンプルサイズには達しなかった。
また、追跡可能であった子供たちは、追跡不能となった子供たちより健康で手指衛生の改善から得るものが少なかった可能性があります。一方で、子どもの欠席率は全ての症例で行われており、追跡不能の影響はほぼありません。
結論
ニュージーランドの小学校では、通常の手指衛生に加えて手指消毒剤を提供したが、学校を欠席させるほど重症の病気を予防する効果は計測されませんでした。
感想と考察
手洗いにアルコール消毒を追加するべきかを調査した研究でしたね。
これはケースバイケースな気もします。例えば、今回の研究のように、手洗いの意識が強く、それが可能な環境(ハンドソープや水の供給がある)であれば、アルコール手指消毒剤は不要なのかもしれません。
一方で、水の供給が不安定、正確な手洗いが難しい(乳幼児など)であれば、アルコール手指消毒を使用したほうがよいのかもしれません。
まとめ
今回は、ニュージーランドの小学生を対象に行われた研究で、流水と石けんによる手洗いに手指消毒剤を追加しても、感染症の予防効果は追加では認められませんでした。
流水と石けんによる手洗いで十分か否かは、想定する感染症、水利用などを含めた環境、対象年齢でも異なるので、解釈は慎重にするべきでしょう。
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