今回の研究は、パキスタンで行われ、手洗いや消毒された水道水の提供が、家庭での胃腸炎や感冒の感染率を低下するか検討しています。
先にこの研究の結論とポイントから述べましょう。
- インドで行われたクラスターRCT
- 手洗い講習と石鹸の無料提供の感染予防効果を検証
- 小児および家族の下痢と呼吸器感染症の発生率が低下した
手洗いの指導や、石鹸やハンドソープを提供すると、乳幼児の下痢の発症率は低下すると報告した研究は多数あります。
研究の概要
目的:
5歳児を対象とした手洗い促進と無料石鹸の提供を組み合わせた介入を行った。この介入が、子供の疾患と学校欠席にどのように影響したかを評価した。
方法:
本研究は、インドのムンバイのにある70の低所得地域において行われたクラスター・ランダム化試験である。各群を35の地域とし、上述の介入をしたのちに、下痢と急性呼吸器感染症、学校の欠席、石鹸の消費量を41週間観察した。
結果:
介入したのは847世帯(5歳児847名、被験者4863名)、コントロールは833世帯(833人の5歳児と4812人の被験者を含み)であった。
介入効果は、negative binomial regressionを用いて推定した。
介入群の5歳児では、
- 下痢(-25%;95%信頼区間-37%〜-2%)
- ARI(-15%;95% CI -30%〜-8%)
- 病気による不登校(-27%;95%CI -41%〜-18%)
- 眼感染(-46%、95% CI=-58%、-31%)
のエピソードが少なかった。
さらに、呼吸器感染症と下痢に関する介入効果は以下の通りであった:
下痢 | 呼吸器感染症 | |
家庭全体 | -31% (-37%〜-5%) |
-14% (-23%〜-6%) |
6〜15歳 | -30% (-39%〜-7%) |
-15% (-24%〜-6%) |
〜5歳 | -32% (-41%〜-4%) |
-20% (-29%〜-8%) |
このように、介入グループにおいて、下痢や急性呼吸器感染症のエピソードが少なかった。
結論:
5歳の子供を対象とした直接接触手洗い介入は、家族全体の健康にも影響する可能性がある。
これらは、官民パートナーシップや教室ベースのキャンペーンを通じて拡張可能かもしれない。
どのような条件下であれば健康の利益を享受でき、どのようなメカニズムでこれが生じたかを理解するためにはさらなる研究が必要である。
感想と考察
手洗い講習と無料で石鹸を提供することで、こども本人だけでなく、家庭内での感染症のリスクが減らせるという面白い結果でしたね。
小児がかぜや胃腸炎をもらってきて、家庭内で移しあってしまうのはよくあることだと思います。この場合、感染症をもちこむ可能性を減らす手洗いが有効だったのかもしれません。
あるいは、石鹸を無料で提供すること、子供が手洗いを頑張ることで、保護者やそのほかの家族もみんな手洗いをするようになって、全体として感染率がへったのかもしれないですね。
まとめ
今回の研究は、インドで行われたクラスターランダム化比較試験でした。
手洗い講習と無料での石鹸の提供が、こども本人だけでなく、家庭内での感染症のリスクが減らせることが示唆されました。
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