- ソーシャル・ディスタンス(3密を避ける)
- 学校閉鎖
など、様々な国で実施され、新型コロナウイルスの拡大を抑制しようとしてきました。
今回は、中国の武漢と上海のデータを使用して、これらが感染症疫学モデル上、どのような効果があったのか、どういうシナリオを描いたのかを検討した論文を紹介します。
- 中国の武漢と上海でのデータを用いて、ソーシャルディスタンスと学校閉鎖の効果をシミュレーション
- ソーシャルディスタンスは、流行の制御に効果がありそう
- 学校閉鎖は、感染者数のピークの減少およびそのタイミングを遅らせる効果が示唆
新型コロナウイルスと学校閉鎖・ソーシャルディスタンスについて検討した研究です。
研究の概要
背景
新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) の伝播を止めるために、中国では、集中的な介入が実施された。
中国以外の国で伝播が激化するにつれ、年齢、接触パターン、社会的距離、感染に対する感受性、および新型コロナウイルスの動態で人々の接触は依然として不明である。
これらの質問に答えるために、武漢・上海において、流行前と流行中の接触者調査データと接触者追跡情報を分析した。
結果
接触者数は、 社会的距離測定期間中に7~8倍減少し、ほとんどは家庭内に限定された。
例えば、小児のデータは以下の通りです:
年齢 | 地域 | 前 | 後 |
0〜6 | 武漢 上海 |
8.6 11.6 |
2.2 1.9 |
7〜19 | 武漢 上海 |
16.2 27 |
2.1 2.6 |
流行前後で見ると、接触者数は10〜20人から2人にまで減少しているのが分かります。
さらに、年齢別に感染のオッズを比較しています:
年齢 | OR |
0〜14歳 | 0.34 [0.24〜0.49] |
15〜64歳 | Ref. |
65歳〜 | 1.47 [1.12〜1.92] |
0~14歳の小児は15~64歳の成人よりもSARS‐CoV‐2感染症に感受性が低い傾向にあります。一方で、 65歳を超える個人は感染症に感受性が高い傾向にあります。
これらのデータに基づいて、感染症疫学モデルを構築し、社会的距離および学校閉鎖の影響を研究した。
アウトブレイク時に中国で実施されたように、社会的距離感のみでCOVID-19を制御するのに十分であることがわかった。
(論文より拝借)
Baseline R0が1.5〜4.0でシミュレーションをしていますが、今回のアウトブレークにおいて、ソーシャル・ディスタンスを実施することでR0が劇的に下がっているのが分かります。
一方で、学校閉鎖は単独ではどうでしょうか。このモデルでのシミュレーションでは、感染を抑制することはできないが(R0が1未満にならない)、ピーク発生率を40~60%低下させ、流行を遅らせることができることが分かりました。
感想と考察
ソーシャル・ディスタンスや学校閉鎖は各国で実施されています。狙いとしては、感染者数そのものを減らすこと、流行のピークを遅らせることでした。
国によって開始のタイミングや方法が微妙に異なるので、これから様々な国でその効果がどうであったのか、検討されてくるでしょう。
新型コロナに関しては、小児での感染者数は少なく、今後、学校を再開した後にどうなるのかは、私は注目しています。
まとめ
今回は、中国の上海と武漢のデータを用いて、ソーシャルディスタンスや学校閉鎖の効果をシミュレーションしています。
ソーシャルディスタンスで新型コロナウイルスのアウトブレイクを制御するのには十分なようでした。学校閉鎖に関しては、感染者数のピークを抑えて、そのタイミングを遅らせる効果が示唆されています。
Dr. KIDの書籍(医学書)
小児のかぜ薬のエビデンスについて、システマティックレビューとメタ解析の結果を中心に解説しています。
また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
1冊で2度美味しい本です:
(2024/11/23 01:09:35時点 Amazon調べ-詳細)
小児の診療に関わる医療者に広く読んでいただければと思います。
新刊(医学書):小児の抗菌薬のエビデンス
こちらは、私が3年間かかわってきた小児の抗菌薬の適正使用を行なった研究から生まれた書籍です。
日本の小児において、現在の抗菌薬の使用状況の何が問題で、どのようなエビデンスを知れば、実際の診療に変化をもたらせるのかを、小児感染症のエキスパートの先生と一緒に議論しながら生まれた書籍です。
Noteもやっています
当ブログの注意点について