今回は、中国・武漢における小児の重症例を検討した研究結果を説明しようと思います。
- 武漢において新型コロナウイルスに感染した小児
- 重症例は260名のうち8例、挿管は3例
- 重症化のタイミングは発症から3日前後
小児260例の一部をレビューした研究ですね。
研究の概要
背景:
新規コロナウイルス病 (COVID‐19) が世界的に広がっている。小児における新型コロナウイルス(COVID‐19)の臨床転帰に対する危険因子についてはほとんど知られていない。
方法:
武漢小児病院において、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症の小児において後向きで症例対照研究を行った。
COVID‐19の発症および進行と関係したリスク因子を集め、統計学的に分析した。
結果:
新型コロナウイルスと診断された小児260人のうち、8人が重度の肺炎と考えられた。
年齢、性別、入院日に対してマッチングを行い、非重症型の小児35名を無作為にサンプルした。
重症例において、最も多い症状は、呼吸困難 (87.5%) 、発熱 (62.5%) および咳 (62.5%) であった。
検査結果によると、
- 白血球数
- hsCRP
- IL‐6
- IL‐10
- D‐ダイマー
- 総ビリルビン
- 尿酸
軽症例と比較して、重症例で上昇していた。
重症小児の全ては胸部CTで病変を示し、非重症小児より重症小児でより多くの肺区域(3つ以上)が関与していた。
結論:
3つ以上の肺区域は、小児の新型コロナウイルス感染症において、重症化のリスクと関連した。
さらに、IL‐6,高総ビリルビンおよびD‐ダイマーの上昇は、早期に重症化を予測できる可能性が示唆される。
感想と考察
小児の重症化因子を探索した研究でした。内容として貴重な報告かもしれませんが、いくつか問題点があります。
例えば、入院例のものデータをつかっています。病院内での症例対象研究(hospital case control study)では、選択バイアスが入りやすいことで有名です。
著者らは、年齢・性別・入院日でマッチングして、ランダムにサンプルしていますが、これだけでは、この選択バイアスを解除することはできません。
また、症例対象研究でマッチングを行なった場合、選択バイアスは必ず招きます。「必ず」です。このため、conditional logistic regressionなど、マッチング因子を対処した統計手法を使うのですが、この著者らは使用していません。
個人的に参考になりそうと思ったのは、以下の数値です:
- 8/260で重症化 [3.1% [1.3%〜6.0%]]
- 重症化した8名で2名は基礎疾患あり(1名:ALL、1名:重度の肥満)
重症 | 軽症 | |
呼吸苦 | 87.5% | 0? |
発熱 | 62.5% | 88.6% |
咳 | 62.5% | 88.6% |
嘔吐・下痢 | 37.5% | 22.9% |
肺区域数 | 5.5 | 1.5 |
左下葉 | 75% | 27.6% |
重症化した症例での治療・経過ですが、
- 発症から重症化までは中央値3日 [1〜6.75]
- PCRが陰性化するまでの期間は10.5日 [6.75-13.75] (vs. 7.1 [4.00〜11.5])
- 全例で酸素投与必要
- 5例は非侵襲的器械換気
- 3例は挿管
- 死亡例は1例:8歳男児、ALLで寛解中だった
死亡例に関しては、前回のまとめで少し触れた少年のようですね。
15歳の肥満患者など、残りの重症者の情報は十分には記載されていませんでした。
まとめ
今回は、新型コロナウイルスに感染し重症化した小児8例とそうでない小児を比較した研究です。
260名の入院例のうち重症化したのは8例(3%)で、このうち2例は基礎疾患(ALLと重度肥満)を有していたようです。
8例とも酸素投与が必要、挿管までいったのは3例のようです。
今さらながら、大塚先生の本を読んでいますが、面白いですね。皮膚科やアレルギーの勉強にもなりますし、心にもしみてきます↓↓
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