新型コロナウイルス

BCGワクチンは、新型コロナウイルスの感染予防効果はない?[イスラエル編]

BCGワクチンと新型コロナウイルスは、結構話題になっていますが、今回はイスラエルからの報告を紹介しようと思います。

ポイント

  •  イスラエルにおいて、BCGワクチンは1982年にユニバーサルワクチンから外された
  •  つまり、1982年より前に生まれた人はBCGワクチンを接種している可能性が高く、後に生まれた人は接種率が低いと考えられる
  •  この2つの集団(79〜81年生まれ vs. 83〜85年生まれ)において、新型コロナウイルスの感染率を比較したところ、感染率はほぼ同じ出会った
マミー
マミー
新型コロナウイルスが流行していますが、BCGワクチンの予防効果はどうですか?

Dr.KID
Dr.KID
色々と報告はあるようですが、イスラエルからの報告をみてみましょう。

  イスラエルからの報告

 研究の概要

背景

1955年から1982年にかけて、イスラエルでは国の予防接種プログラムの一環として、すべての新生児にBCGワクチンが定期接種されていました。
このため、イスラエル全体におけるBCGワクチンの接種率は高く、この世代の90%以上がカバーされています。

1982年以来、イスラエルでは、BCGワクチンは結核の有病率が高い国からの移民にのみ投与されてきました。
この変化により、BCG接種の状態が異なる2つの類似した集団 (BCGワクチンのプログラムの終了前3年間 vs. 終了後3年間) における重度のCOVID-19疾患の感染率の比較が可能となった。

方法

現在のイスラエルの政策では、 新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)に矛盾しない症状を有する (咳、呼吸困難、発熱)場合、全ての患者で検査することとしている。

2020年3月1日〜4月5日に、指定された研究所で、鼻咽頭スワブから採取されたぬぐい液は、RT-PCRより検査された(患者1人当たり1回の検査)。

この結果を、特定の出生年の人口データは、中央統計局から入手し、出生年で層別化した。

新型コロナウイルス感染症に矛盾しない症状のある人における検査陽性者の割合と、その母集団における10万人あたりの検査陽性者数を、1979年〜1981年生まれ(39-41歳)vs. 1983年〜1985年に生まれ(35歳から37歳)で比較した。

結果

レビューした72,060の検査結果のうち、 3064は1979~1981年に生まれであり、 2869は1983~1985年に生まれたであった。

BCG接種の
可能性
高い 低い
生まれ 79〜81年 83〜85年
年齢 39〜41歳 35〜37歳
母集団 297,340 301,600
移民 14,569 13,873
検査数 3064 2869
検査陽性 11.7% 10.4%
陽性者数
/10万人当たり
121 100

それぞれの差を取ると

  •  陽性の割合の差:+1.3% (-0.3〜2.9%)
  •  陽性者数: +21 (-10〜50) / 10万人

と、2グループではほとんど差はありませんでした(むしろ、BCG接種グループの方が陽性率はやや高い)。

考察

35歳〜41歳までのイスラエルの成人の調査では、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する陽性検査結果の割合は、小児期のBCG予防接種あり vs. なしで比較して、同程度であった。

一方で、重症例数が少ないため、BCGの状態と疾患の重症度との関連についての結論には到達できない。

この研究の強みは、集団ベースで、2つの類似した年齢群の比較であり、交絡因子を最小限に制限できているのかもしれない。一方で、ワクチン接種状況が不明なイスラエル生まれでない集団がいる点は懸念事項であるが、この年齢層の中では少数であり、大きな偏りはなさそうである。
また、検査対象者は症状に基づいて事前に選択されているため、その集団における陽性率を表していないかもしれない。

結論として、この研究は、「小児期のBCGワクチン接種が成人期の新型コロナウイルスに対する予防効果を有する」という考えを支持しない。

感想と考察

BCGと新型コロナウイルスの関連性を調査した報告はいくつかあるようです。例えば、国レベルでBCGワクチン接種率と新型コロナウイルスの感染率を比較した研究もあるようです。

こうした比較の問題点として、「BCGワクチンの接種率が高い_国_は、新型コロナ陽性率が低い」といった「国」レベルでの傾向を示すのであって、必ずしも個人レベルでの予防効果を示さない可能性もあります。

今回の研究のように、同じ集団(イスラエル)において、接種ありの集団と接種なしの集団を比較する方が、より解釈はしやすいです。

今回の研究は、1979年〜1981年生まれ(39-41歳)vs. 1983年〜1985年に生まれ(35歳から37歳)という比較で、ワクチン接種率が高い vs. 低い集団での比較になります。

完璧ではないにしても、国をまたいだ比較よりは、交絡は少なく、解釈はしやすいと思います。

Dr.KID
Dr.KID
この2つの集団のバックグラウンドに、大きな差はないという前提が必要にはなりますが…

一方で、重症化率や死亡率といったアウトカムや、ワクチン株による違いは検討できていないので、課題はまだまだ残っているでしょう。

まとめ

今回は、イスラエルにおいて、年齢によってBCGワクチン接種率が異なる2つの集団で、新型コロナウイルス感染率が異なるかをみています。

BCGワクチン接種率が高い年齢グループは、低いグループと比較して、感染率はほとんど変わらなかったようです。

 

 

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ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。