今回は、日本の小児ITP患者において、血小板数と粘膜出血に基づいて、異なる治療方針でRCTを行い、その経過を報告しています。
- 2000年の日本からの報告
- 血小板数と粘膜出血の有無で場合分けをし、RCT
- 粘膜出血がなく、血小板数 > 10,000/μLであれば、無治療も選択肢に
ITPはかつて特発性血小板減少性紫斑病 or 免疫性血小板減少性紫斑病、その後、免疫性血小板減少症と呼び名が変わっています。
研究の概要
背景・目的
小児において、急性特発性血小板減少性紫斑病 (ITP) に対する最小限であり、必須となる治療を決定するため、血小板数と出血症状に焦点を当てて、RCTを行った。
方法
2000年に日本から報告された論文です。
対象となった小児は、
- 血小板数が<10,000/μL
- 血小板数が10,000〜29,000/μLかつ粘膜出血あり
のITPです。治療は、
- 1~2 g/kgの静脈内免疫グロブリン (IVIg) 投与、
- 経口プレドニゾロン (o‐PSL) (2 mg/kg, 2週間)投与
- 静注メチルプレドニゾロン (mPSL) (5 mg/kg, 5日間)
- 静注メチルプレドニゾロンパルス療法 (PmPSL) (30 mg/kg, 3日間)
のいずれかをランダムに割りつけています(グループ1)。
血小板数が10,000〜29,000/μLであるものの、粘膜出血のないITP患者は、経口PSL投与群または無治療群に無作為に割り付けた(グループ2)。
血小板数が30,000/μL以上の被験者においては、特異的治療をせずモニターした。
結果
グループ1では、 o‐PSLおよびmPSLと比較して、IVIGは血小板の回復は早い傾向にあった。
一方で、 mPSLやPmPSLは、o‐PSLよりも利点を示さなかった。
血小板の回復は、治療前の血小板数が > 10,000/μLの場合に良好であった。
さらに、血小板数<10,000/μLのある患者において、粘膜出血の有無は治療反応性に影響しなかった。
グループ2(血小板数 > 10,000/μLかつ粘膜出血なし)では、経口ステロイド(o‐PSL)の有無にかかわらず血小板増加が認められた。
結論
小児の急性ITPにおいて、血小板数 > 10,000/μLかつ粘膜出血がない場合、未治療で経過観察をするのも選択肢の1つである。
また、粘膜出血が明らかな場合に経口ステロイド(o‐PSL)での治療は可能であるが、特に血小板数が<10,000/μLの場合、 IVIGが最も血小板数の増加という点では優れているかもしれない。
考察と感想
よくデザインされた研究と思いました。この論文の通りですと、
- 血小板数 > 10,000/μL + 粘膜出血なし
→治療無しで経過観察も可能
- 血小板数 10,000〜29,000/μL + 粘膜出血あり
- 血小板数 <10,000/μL
→ ステロイドまたはIVIG。血小板が低い場合は、早期の血小板数の回復を目指すなら、IVIGのほうがよいかも。
という感じになりそうですね。しかし、「早期の血小板数の回復」を目指すことの是非は議論が分かれそうです。IVIG、ステロイド、無治療で比較した別の研究もあり、治療開始後数日以内の血小板数はIVIGがよかったですが、10〜30日でみると血小板数はかわらないというデータもあるようです。
まとめ
今回の研究は、小児ITPを血小板数と粘膜出血の有無でグループ分けし、さらに治療方針を比較したRCTでした。
「血小板数 > 10,000/μL + 粘膜出血なし」であれば、無治療経過観察も治療の選択肢になりそうです。一方で、これ以外のパターンに関して、治療の比較(無治療、IVIG、ステロイド)は、意見が分かれそうな印象です。
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