今回は、小児の慢性ITPにおいて、脾臓摘出による治療の報告を紹介します。
ITPに対する脾臓摘出はかなり昔から行われていたようで、小児のデータも少しあります。
ITPはかつて特発性血小板減少性紫斑病 or 免疫性血小板減少性紫斑病、その後、免疫性血小板減少症と呼び名が変わっています。
研究の概要
背景・目的
小児における慢性および難治性ITPの管理については議論が分かれている。
方法
著者らは、1990年から2003年に、慢性ITPに対して脾臓摘出を行った小児のカルテレビューを、中国の単施設で行った。
術後に血小板数 > 3万/μLであれば、反応性ありと判断した。
寛解の基準は、
- 完全寛解:> 10万/μL + 追加治療なし
- 部分寛解:3-10万/μL + 追加治療なし
- 反応なし:< 3万/μL
としています。
結果
343人の慢性ITP患者のうち、91人(26.5%)が脾臓摘出された。このうち、分析可能なデータがあったのは65名であった。
分析した小児65人のうち、脾臓摘出術に対して即時に臨床的反応を認めたのは89.2%であった。
脾臓摘出後の追跡期間中央値は52か月 (8~124) であった。
追跡期間中、 9人の子供 (13.8%) が中央値6か月以内 (範囲, 2~58)に再発した 。
合併症の割合は1.5%で、周術期死亡率は0%であった。
追跡期間中に、 1人の子供は頭蓋内出血 (ICH) のため、 1人は脾臓摘出後感染症 (OPSI; overwhelming post-splenectomy infection) のため死亡した。
脾臓摘出7日後の血小板数は脾臓摘出に対する持続的反応の予測因子であった。
しかし、術前パラメータは脾臓摘出に対する反応の予測因子ではなかった。
脾臓摘出の効果が乏しかった15人の小児 (ICHで死亡した1人を除く) のうち、コルチコステロイドおよびIVIGを間欠的に必要としたのはわずか2人であった。
結論
脾臓摘出は慢性ITPの小児における疾患の長期コントロールをもたらす潜在的治療法であり、周術期の合併症リスクおよび死亡率は低い。
劇症敗血症のリスクは、依然としてあらゆる懸念事項である。OPSIの問題を軽減するために、肺炎球菌に対するワクチン接種および抗菌薬の予防投与が推奨されるべきである。
さらに、小児には細菌感染に対して適時かつ適切な抗菌薬を投与すべきである。
考察と感想
1ヶ月以内の改善を即時の反応、6ヶ月後の改善を持続反応としていますが、以下の通りでした:
即時 < 1ヶ月 |
持続 6ヶ月 |
|
完全寛解 | 67.7% | 61.5% |
部分寛解 | 21.5% | 15.4% |
反応なし 再発 |
10.7% | 9.2% 13.8% |
死亡例は2例で、1例は脾臓摘出後も血小板の回復が悪く、様々な治療にも抵抗性を示し、頭蓋内出血をきたしたようです。
もう1例は、術後6年ほどで敗血症を起こしたようです。術前のワクチン接種は行われておらず、抗菌薬の投与も遅れてしまっていたようです。
まとめ
今回は、中国において慢性ITPにおいて脾臓摘出後の経過をみた報告です。
65例に脾臓摘出を行い、90%は良好な反応があったようで、80%は寛解を維持できたようです。
一方で、敗血症や重篤な出血を認めた症例もわずかにいたようです。
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