成人においては、慢性ITPにおけるピロリ菌の除菌効果は広く知られているかもしれません。
一方で、小児の報告は少なく、今回はタイで行われた小規模なRCTを見つけたため、紹介させていただこうと思います。
ITPはかつて特発性血小板減少性紫斑病 or 免疫性血小板減少性紫斑病、その後、免疫性血小板減少症と呼び名が変わっています。
研究の概要
背景・目的
小児慢性ITPにおいて、Helicobacter pyloriの除菌が血小板回復に対して効果があるか検討すること。
方法
多施設合同でランダム化比較試験を実施した。
原因不明で6か月以上にわたり、血小板数が100×10^9́/L未満が持続し、慢性ITPと診断された、4~18歳の小児を対象として研究に登録した。
H.pylori感染の診断のために13́C‐尿素呼気試験を行った。
1名の患者はITPが増悪し、0.5 mg/kg/日以上のプレドニゾロンが必要であったため研究から除外された。
H.pylori感染患者を治療群と対照群の2群にランダム化した。
治療群はH.pylori除菌の標準プロトコルを受け、 4~6週で13́C‐UBTを反復して行い除菌を確認した。
対照群は特異的治療を受けなかった。
両群で毎月の血小板数を6か月間モニターした。
主要転帰は、血小板の回復であった。これは、「少なくとも3か月間の100×10^9́/Lを超える血小板数」と定義された。
結果
慢性ITPと診断された小児55名のうち、 16名 (29.1%) がH.pylori感染を有していた
治療群(n=7)と対照群(n=9)の間に年齢、性、疾患期間、血小板数およびプレドニゾロン用量に差はなかった。
対照群の1人の患者は、高用量プレドニソロンによる重大な消化管出血のため、中止した。
6か月で、血小板回復は、治療群の1人の患者および対照群の1人の患者で示された。
結論
小児慢性ITPにおける血小板回復に対するH.pylori除菌の有益効果は確認されなかった。
考察と感想
除菌の治療プロトコールは以下の通りですね:
The first-line protocol for H. pylori eradication was PPI-based triple therapy, consisting of lansoprazole 15 mg (BW<30 kg) or 30 mg (BW30 kg) twice daily, amoxicillin 25 mg/kg twice daily and clarithromycin 7.5 mg/kg twice daily for 14 days.
If the first-line protocol failed to eradicate H. pylori, then the second-line protocol was used and it consisted of ranitidine-bismuth-citrate 400 mg twice daily, metronidazole 10 mg/kg thrice daily and amoxicillin and lansoprazole (same doses as the first-line protocol) for 14 days.
治療の効果推定の定義があやふやですが、例えば6ヶ月後・12ヶ月後のデータをもとに解析し直すと以下の通りになります:
治療 | 対照 | リスク比 | |
6ヶ月 | 1/7 (14.3%) |
1/8 (12.5%) |
1.14 (0.09, 15.1) |
12ヶ月 | 1/7 (14.3%) |
1/7 (14.3%) |
1.00 (0.08, 13.0) |
サンプルサイズを大きくして、追加での検討が必要と思います。
原著の図を見ても、自然回復のような気がしてしまいました。
まとめ
今回は、慢性ITPにおけるピロリ菌の感染率と、除菌の効果を検討した研究です。
慢性ITPの小児において、ピロリ菌は30%ほどで感染していました。
ピロリ菌の除菌しても、血小板数の回復はほとんど認めなかったですが、サンプル数が少ないため、追加検証は必要と思います。
Dr. KIDの執筆した書籍・Note
医学書:小児のかぜ薬のエビデンス
小児のかぜ薬のエビデンスについて、システマティックレビューとメタ解析の結果を中心に解説しています。
また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
1冊で2度美味しい本です:
(2024/11/21 01:00:58時点 Amazon調べ-詳細)
小児の診療に関わる医療者に広く読んでいただければと思います。
医学書:小児の抗菌薬のエビデンス
こちらは、私が3年間かかわってきた小児の抗菌薬の適正使用を行なった研究から生まれた書籍です。
日本の小児において、現在の抗菌薬の使用状況の何が問題で、どのようなエビデンスを知れば、実際の診療に変化をもたらせるのかを、小児感染症のエキスパートの先生と一緒に議論しながら生まれた書籍です。
Noteもやっています