アメリカにおいて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックと、その後の広がりは、ほとんどの方がご存知でしょう。
新型コロナウイルスの感染者数が増えるにつれて、自発的な行動変容や、法的な制限(例:州が義務づけた学校閉鎖)措置がとられましたが、これらが感染者数や死亡者数に与える関連性を検討した研究は限られています。
今回の研究では、この関連性を検討し、自発的な行動変化(例:職場での滞在時間の短縮)は新型コロナウイルス感染症の発症率および死亡率と関連性が示唆された結果でした。また、この関連性の強さは、学校閉鎖のそれと比較すると、3倍程度という結果でした。
これらの結果の意味するところですが、新型コロナウイルス感染を防ぐためには,学校閉鎖の義務化よりも、有害性の低い方法があることが示唆された.
- 学校閉鎖やリモートワークなどが新型コロナウイルスへの感染者数や死亡者数に与えた影響を調査
- 感染や死亡リスクは、学校閉鎖による効果より、行動変容(リモートワークなど)によるものほう大きくリスク減少する傾向にあった
2021年2月に公表されたようです。
乳幼児の新型コロナウイルスの感染率は?保育所での拡大は?[フランス編]
研究の背景/目的
学校閉鎖が子どもたちの健康に与えた影響は深いが、新型コロナウイルス感染を制限する効果に関する既存のエビデンスは不確定である。
自主的な行動変容、学校閉鎖、大規模集会の禁止といった介入が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生率および死亡率とどの程度の関連性があるかを明らかにした。
研究の方法
この集団ベースのInterrupted Time Series Analysesでは、米国の各州から公開されている2020年3月8日〜5月18日までの60日間に観測されたデータが使用された。
米国内の個人について匿名化された携帯電話またはインターネットデータから行動尺度が収集され、2020年1月3日から2月6日までのベースラインと比較された。
推定値は、州レベルの特徴についてもコントロールされた。
介入
- 学校閉鎖からの日数
- 10人以上の集会禁止からの日数
- Google Mobilityのデータを用いて居住者が自発的に15%以上の在勤時間減少を行った日
アウトカム
自然対数化された7 日間の平均 COVID-19 罹患率と死亡率
研究の結果
調査期間中の外食率は、調査期間中に平均98.3%(SD, 5.2%)と1年前より低下した。
また、仕事場での滞在時間は平均40.0%(SD, 7.9%)減少し、在宅ワークの時間は平均15.4%(SD, 3.7%)増加した。
統計モデルで調整された解析結果によると、
- 学校閉鎖の義務化の実施で1日あたり発生率が3.5%減少する
(発生率比[IRR]、0.965;95%CI、0.946-0.984) - 行動の変化で1日あたり発生率が9.3%減少する
(IRR、0.907;95%CI、0.890-0.925)
と、感染症の進行を遅らせる傾向にあった。
死亡率については、
- 学校閉鎖が1日あたり3.8%の減少(IRR、0.962;95%CI、0.926-0.998)
- 行動変容が1日あたり9.8%の減少(IRR、0.902;95%CI、0.869-0.936)
と感染を遅らせる効果が示唆された。
シミュレーション結果によると、学校閉鎖を2週間遅らせるだけで23,000人(95%CI、2000-62,000人)の死亡数増加と関連していた。
さらに、学校閉鎖を維持するものの、自主的な行動変更を2週間遅らせると、140,000人(95%CI、65,000-294,000人)の死亡と関連することが示唆された。
結論
これらの知見は、閉校した学校の子どもたちへの被害を考えると、政策立案者は、自発的な行動変容を通じて、自分の身を守ろうとする国民の意思をよりよく活用することを検討すべきであることを示唆している。
考察と感想
新型コロナウイルスの流行時に学校閉鎖が世界各国で行われましたが、その効果は比較的小さいという知見が過去にもありました。
今回の研究結果もそれを支持する内容で、全く効果がないわけではないが、そのほかの行動変容をした方が効果的でしょうね、という内容でした。
3〜5月の時点では未知の部分が多かったのと、これまでのインフルエンザの教訓から、学校閉鎖に踏み切った背景があります。これに関しては、仕方なき側面もありますが、このように後から効果を評価することは重要と思います。
まとめ
学校閉鎖やリモートワークなどが新型コロナウイルスへの感染者数や死亡者数に与えた影響を調査した研究です。
感染や死亡リスクは、学校閉鎖による効果より、行動変容(リモートワークなど)によるものほう大きくリスク減少する傾向にあったようです。
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