小児におけるSARS-CoV-2感染の危険因子は、まだ十分に定義されていません。
現在のガイドラインでは、喘息患者はSARS-CoV-2感染を予防するためにさらなる予防措置をとることが推奨されていますが、小児における喘息とSARS-CoV-2感染リスクおよび重症度の関係は明らかではありません。
喘息を持つ小児は、喘息を持たない小児と比較してSARS-CoV-2感染のリスクは高くなく、概してSARS-CoV-2に関連した疾患は軽症である可能性が示唆された研究があるので、ご紹介しようと思います。
- Framingham Heart Studyの一環として,1971年から2003年にかけて繰り返し評価
- ネットワーク解析で検討
- 禁煙は社会的なつながり(配偶者や友人)と関連していた
Rao S, Hurst JH, Zhao C, Goldstein BA, Thomas L, Lang JE, Kelly MS. Asthma and the Risk of SARS-CoV-2 Infection Among Children and Adolescents. Pediatrics. 2022 Jun 1;149(6):e2021056164. doi: 10.1542/peds.2021-056164. PMID: 35274143.
アメリカで2022年に報告された研究です。
小児喘息と新型コロナウイルスの関連性について[アメリカ編]
研究の背景/目的
米国では 600 万人以上の子どもにおいて重症急性呼吸器症候群コロナウイルス 2 型(SARS-CoV-2)感染が発生しているが、感染のリスク因子はまだ十分に定義されていない。
本研究の目的は、小児における喘息と SARS-CoV-2 感染リスクとの関連の評価とした。
研究の方法
Duke University Health Systemで治療を受けている5歳から17歳の小児で、ノースカロライナ州Durham郡に住所がある者を対象に、後方視的コホート研究を実施した。
小児は、以前に検証された電子健康記録に基づく定義を用いて、喘息の分類がされた。
SARS-CoV-2 感染は,2020 年 3 月 1 日~2021 年 9 月 30 日に採取した呼吸器サンプルのPCR陽性に基づいて同定した.
傾向スコアを用いて喘息のある小児と喘息のない小児を 1:1 でマッチさせ、ポアソン回帰を用いて喘息と SARS-CoV-2 感染リスクとの関連を評価した。
研究の結果
46 900人の小児のうち、6324人(13.5%)が喘息の基準を満たした。
喘息のある小児は、喘息のない小児よりもSARS-CoV-2感染の検査を受ける可能性が高かった(33.0%対20.9%、P < 0.0001)。
傾向スコアをマッチさせた小児12 648人のコホートにおいて、706人(5.6%)の小児がSARS-CoV-2感染検査で陽性となり、そのうち350人(2.8%)は喘息持ち、356人(2.8%)は喘息なしだった(リスク比:0.98、95%信頼区間:0.85~1.13)。
吸入コルチコステロイドの処方、重度増悪の既往、アトピー性疾患の併存によるこの関連性の効果修飾はなかった。
SARS-CoV-2感染で入院を必要とした喘息児は1名のみであった。
結論
SARS-CoV-2検査に関連する因子を制御した結果、喘息児のSARS-CoV-2感染リスクは喘息児と同程度であることがわかった。
考察と感想
いくつかの先行研究では、喘息はSARS-CoV-2感染に対する感受性の低さ、重症化リスクの低さと関連している可能性が示唆されていたようです。
ただし、これらの知見の根拠となる研究は主に成人を対象、入院患者を対象、SARS-CoV-2検査のために来院した人のconvenience sampleによって実施されていた経緯があり、様々なバイアスや外的妥当性の問題があると考えられます。
このため、今回の研究が行われたようです。
傾向スコアマッチングされていたのですが、あまり細かい方法論が書かれていなかった点が少し気になりました。例えば、caliperの設定はどうしたのか、組み合わせをどうしたのか、replacementをどうしたか、PCR testingは変数として使用したのか、といった細かな点です。
あと、マッチさせた後に層別化をして効果修飾をみている点も、方法としてよいものなのか、少し疑問をもちました。
というのも、喘息あり/なしでマッチさせて、さらにそこから層別化された集団において、他の背景因子にバランスが取れているか否かの確認がなされていなかったからです。
まとめ
小児の喘息は、SARS-CoV-2感染またはCOVID-19による重症化の素因になるというエビデンスは見つからなかったです。
また、SARS-CoV-2検査の著しい格差が確認され、特定の脆弱な小児集団におけるSARS-CoV-2検査および治療へのアクセスを改善する必要性が浮き彫りにされました。
Dr. KIDの執筆した書籍・Note
絵本:めからはいりやすいウイルスのはなし
知っておきたいウイルスと体のこと:
目から入りやすいウイルス(アデノウイルス)が体に入ると何が起きるのでしょう。
ウイルスと、ウイルスとたたかう体の様子をやさしく解説。
感染症にかかるとどうなるのか、そしてどうやって治すことができるのか、
わかりやすいストーリーと絵で展開します。
(2024/11/21 09:53:24時点 Amazon調べ-詳細)
絵本:はなからはいりやすいウイルスのはなし
こちらの絵本では、鼻かぜについて、わかりやすいストーリーと絵で展開します。
(2024/11/21 13:16:41時点 Amazon調べ-詳細)
絵本:くちからはいりやすいウイルスのはなし
こちらの絵本では、胃腸炎について、自然経過やホームケアについて解説をした絵本です。
(2024/11/21 04:17:15時点 Amazon調べ-詳細)
医学書:小児のかぜ薬のエビデンス
小児のかぜ薬のエビデンスについて、システマティックレビューとメタ解析の結果を中心に解説しています。
また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
1冊で2度美味しい本です:
(2024/11/21 01:00:58時点 Amazon調べ-詳細)
小児の診療に関わる医療者に広く読んでいただければと思います。
医学書:小児の抗菌薬のエビデンス
こちらは、私が3年間かかわってきた小児の抗菌薬の適正使用を行なった研究から生まれた書籍です。
日本の小児において、現在の抗菌薬の使用状況の何が問題で、どのようなエビデンスを知れば、実際の診療に変化をもたらせるのかを、小児感染症のエキスパートの先生と一緒に議論しながら生まれた書籍です。