Virchow JC, Backer V, Kuna P, Prieto L, Nolte H, Villesen HH, Ljørring C, Riis B, de Blay F. Efficacy of a House Dust Mite Sublingual Allergen Immunotherapy Tablet in Adults With Allergic Asthma: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016 Apr 26;315(16):1715-25. doi: 10.1001/jama.2016.3964. PMID: 27115376.
ハウスダストダニ舌下免疫療法(SLIT)タブレットのアレルギー性喘息に対する有効性 [EU]
研究の背景/目的
ハウスダストダニ(HDM)舌下免疫療法(SLIT)タブレットは、HDMアレルギー関連喘息に対する新しい治療選択肢として期待されている。
吸入ステロイド(ICS)減量期間中の喘息増悪に対するHDM SLITタブレットの有効性と副作用を、プラセボと比較して評価する。
研究の方法
この試験は、2011年8月から2013年4月までの期間に、ヨーロッパの109の臨床試験施設で実施された二重盲検ランダム化プラセボ対照試験である。
対象者は、ICSまたはICSと長時間作用型β2刺激薬(LABA)の併用療法によっても喘息が十分にコントロールされていない、HDMアレルギー関連喘息を有する成人834名であった。また、対象者全員がHDMアレルギー性鼻炎を併発していた。
主な除外基準
- FEV1(1秒量)が予測値の70%未満
- ランダム化前3か月以内に喘息による入院歴がある患者
試験の有効性は、試験期間の最後の6か月間において評価された。この期間では、ICS用量を50%減量する期間(3か月)と、その後ICSを完全に中止する期間(3か月)が設定されていた。
主要評価項目
- ICS減量期間中における最初の中等度または重度の喘息増悪までの時間
副次評価項目
- 喘息症状の悪化による増悪の発生率
- アレルゲン特異的IgG4(免疫グロブリンG4)の変化
- 喘息コントロール質問票(ACQ)および喘息QOL質問票(AQLQ)の変化
- 副作用の発生率と種類
研究の結果
被験者の特性として、
- 平均年齢は33歳(範囲:17~83歳)
- 女性の割合は48%
- 試験完了者数は693名(834名中)
であった。
主要評価項目である喘息増悪について、6 SQ-HDM群および12 SQ-HDM群の両方で、プラセボ群と比較して中等度または重度の喘息増悪のリスクが有意に減少した。
- 6 SQ-HDM群 vs. プラセボ:ハザード比(HR)= 0.72(95% CI, 0.52-0.99, P = .045)
- 12 SQ-HDM群 vs. プラセボ:HR = 0.69(95% CI, 0.50-0.96, P = .03)
- 6 SQ-HDM群の絶対リスク減少(ARR):9%(95% CI, 1%-15%)
- 12 SQ-HDM群のARR:10%(95% CI, 2%-16%)
- 6 SQ-HDM群と12 SQ-HDM群の間に有意差なし
副次評価項目では、喘息症状の悪化による増悪リスクについて、
- 6 SQ-HDM群 vs. プラセボ:HR = 0.72(95% CI, 0.49-1.02, P = .11)
- 12 SQ-HDM群 vs. プラセボ:HR = 0.64(95% CI, 0.42-0.96, P = .03)
また、アレルゲン特異的IgG4は両アクティブ群で有意に増加したが、
喘息コントロール(ACQスコア)およびQOL(AQLQスコア)に関しては、いずれの群間でも有意差は認められなかった。
重篤な全身性アレルギー反応は報告されなかった。
最も多く報告された副作用は、
- 軽度~中等度の口腔掻痒感(6 SQ-HDM群 13%、12 SQ-HDM群 20%、プラセボ群 3%)
- 口腔浮腫
- 咽頭刺激感
などであった。特に12 SQ-HDM群では副作用の頻度が高かった。
結論
HDM SLITタブレットは、ICSでコントロールが不十分な喘息患者において、ICS減量中の喘息増悪のリスクを低減する有効な治療法となる可能性が示された。ただし、その効果は主に中等度の喘息増悪の抑制に限定されており、重度の喘息増悪に対する影響は限定的であった。また、12 SQ-HDM群では副作用の頻度が高かったため、安全性の観点から6 SQ-HDMがより適した用量である可能性がある。今後、より長期の有効性やICS中止後の持続的な効果を評価する追加研究が求められる。
考察と感想
この研究は、ハウスダストダニ(HDM)アレルギーに関連する喘息患者に対し、舌下免疫療法(SLIT)タブレットの有効性を初めて検証した貴重な試験である。特に、ICSを使用しても十分にコントロールされない患者において、喘息増悪のリスクを低減できることを示した点は、臨床的に大きな意義があると感じる。
一方で、喘息コントロール(ACQスコア)やQOL(AQLQスコア)には有意な改善が認められなかった点は、免疫療法が症状管理よりも疾患修飾効果を重視した治療であることを改めて示している。さらに、研究期間が免疫療法の標準的な3年よりも短いため、長期的な持続効果や治療終了後のリバウンドについての評価が不足しているのは課題として残る。
副作用として、口腔掻痒感や咽頭刺激感などの局所反応が報告されているが、重篤な全身性アレルギー反応がなかった点は、安全性の面での安心材料といえる。ただし、12 SQ-HDM群では副作用の頻度が高かったため、用量設定に関するさらなる検討が必要だろう。
総じて、本試験はHDMアレルギーに対する舌下免疫療法の有効性を裏付ける重要なエビデンスを提供しており、今後の長期的なフォローアップ研究や、より広範な患者層での検証が期待される。
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