RSウイルス

妊婦および新生児におけるRSVワクチンとニルセビマブの接種状況 [米国編]

本研究は、2023年に承認された妊娠中のRSVワクチン(RSVpreF)と新生児向けモノクローナル抗体(ニルセビマブ)の普及状況を調査したコホート研究です。妊婦と新生児における接種率や関連要因を分析し、これらの予防策の実施状況を明らかにすることを目的としています。RSVの予防戦略として、妊娠中のワクチン接種と新生児への抗体投与がどの程度受け入れられているのかを検討しました。
 
参考文献

Blauvelt CA, Zeme M, Natarajan A, Epstein A, Roh ME, Morales A, Bourdoud N, Flaherman VJ, Prahl MK, Gaw SL. Respiratory Syncytial Virus Vaccine and Nirsevimab Uptake Among Pregnant People and Their Neonates. JAMA Netw Open. 2025 Feb 3;8(2):e2460735. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2024.60735. PMID: 39969879; PMCID: PMC11840647.

妊婦および新生児におけるRSVワクチンとニルセビマブの接種状況 [米国編]

研究の背景/目的

2023年に、乳児の重症RSV(呼吸器合胞体ウイルス)感染を予防するための2つの介入策が承認されました。一つは妊娠中に接種する二価RSV前融合Fタンパク質ベースのワクチン(RSVpreFワクチン)、もう一つは新生児向けのモノクローナル抗体であるニルセビマブ(nirsevimab)です。これらの予防策の普及状況と臨床的な結果を明らかにすることは、公衆衛生計画にとって重要です。

研究の方法

本研究は、単一の学術医療機関における後ろ向きコホート研究として実施されました。対象者は、2023年10月15日から2024年1月31日までに妊娠32〜36週に達し、RSVpreFワクチンの接種が推奨される妊婦647名、およびRSVpreFワクチンを出産14日以上前に接種していない新生児です。研究の主要な評価項目は、対象妊婦におけるRSVpreFワクチンの接種率と、対象新生児が退院前にニルセビマブを投与された割合でした。

研究の結果

対象となった647名の妊婦のうち、64.0%(414名)がRSVpreFワクチンを接種しました。ワクチン接種率が高かった要因には、高齢の妊婦(調整オッズ比[AOR] 1.09)、初産(AOR 1.84)、民間保険加入(AOR 2.19)、非ヒスパニック系の人種/民族(AOR 2.36)、COVID-19ワクチンの接種歴(AOR 7.12)、2023-2024年版のCOVID-19ブースター接種(AOR 5.62)、インフルエンザワクチン接種(AOR 8.14)、破傷風・ジフテリア・百日咳(Tdap)ワクチン接種(AOR 6.86)などが挙げられました。一方で、RSVpreFワクチンの接種率が低かった要因としては、英語以外の言語を主に使用(AOR 0.24)、黒人(AOR 0.30)、その他の人種または不明(AOR 0.48)、多胎妊娠(AOR 0.27)がありました。

新生児のニルセビマブ投与率は70.1%(261名中183名)でした。妊婦がRSVpreFワクチンや通常の妊娠中ワクチンを接種しなかった場合でも、その子どもの40.4%(47名中19名)がニルセビマブを投与されていました。また、新生児のB型肝炎ワクチンを拒否した場合でも、34.0%(50名中17名)がニルセビマブを受けていました。全体として、研究期間中のほとんどの月でRSVに対する予防策のカバー率は80%を超えていましたが、導入初月の2023年10月のみこの基準に達しませんでした。

早産率は、RSVpreFワクチン接種者で8.5%(414名中35名)、未接種者で18.5%(233名中43名)でした。しかし、ケースコントロール解析ではRSVpreFワクチン接種と早産との間に統計的に有意な関連は認められませんでした(AOR 1.03、95%信頼区間 0.55-1.93)。

結論

本コホート研究では、RSVpreFワクチンとニルセビマブの接種率は高く、特にニルセビマブは通常の妊娠中や新生児向けワクチンを受けなかったケースでも一定の普及率を示しました。また、RSVpreFワクチン接種と早産との関連は認められず、安全性に関する懸念も特に見られませんでした。これらの結果は、妊娠中のワクチン接種と新生児へのモノクローナル抗体投与を組み合わせたRSV予防戦略が、高い普及率を維持しつつ、良好な周産期アウトカムをもたらす可能性を示唆しています。

考察と感想

本研究では、RSVpreFワクチンとニルセビマブの導入期における高い普及率が確認されました(ちなみに同時期の全米は18%:https://www.cdc.gov/rsvvaxview)。

特に、ワクチン接種を受けなかった妊婦の新生児でも一定割合がニルセビマブを受けており、受動免疫が予防策として受け入れられやすい可能性が示唆されました。RSVpreFワクチンの迅速な普及は、医療機関での提供体制や事前の広報活動、RSV流行の影響による認識の高まりが要因と考えられます。

一方で、RSVpreFワクチンの接種期間が限られていたことが、未接種者の一因になった可能性もあります。RSVpreFワクチンと早産との関連は認められず、安全性の面でも一定の信頼性が示されました。ニルセビマブは病院内で提供され、保険の有無に関わらず無料で接種できたことが高い接種率につながったと考えられます。今後、RSV予防策の最適な組み合わせや、接種をためらう要因の解明が求められます。

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このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。