以前、ほむほむ先生(@ped_allergy)のツイートとブログで「抗菌薬は気管支喘息の入院患者に有用か?」というテーマで行われた研究の記事を読ませていただきました。
【NEW!】喘息は、ウイルス感染に伴い悪化することが多く細菌の感染で悪化することは少ないです。
ですから抗菌薬は一般に無効であるはずですが、使用するケースを少なからず見受けられます。
今回は、その抗菌薬が治療結果を悪化させているかもという報告をご紹介します。 https://t.co/875puqrBSa— ほむほむ@アレルギー専門医 (@ped_allergy) April 3, 2019
疫学研究者的な視点で見ると、この研究のユニークな点は、様々な統計手法を駆使している点にあります。例えば、
- 回帰分析
- PSマッチング
- IPTW
- 操作変数法
など4種類もの疫学手法を凝らして仮説を検定しています。通常、観察研究では様々なバイアスが入り込んでくるため、治療効果の推定値は真の値を反映できないことがあります。この欠点の1つとして、統計・疫学手法にもあります。
それぞれの疫学手法には、異なる「前提条件」というものを置いて、治療効果を推定しています。もし異なる前提条件を置いて沢山の視点から解析しても、同じ治療効果を認めたとしたら、その結論は強固(robust)であるかもしれないと言えそうです。
この論文では、まさにその試みがされている点で非常にユニークと言えます。また、疫学者から見ても、「ここまでやるのか」と魅力的にも映ります。
研究の方法
今回はアメリカのPremier Inpatient Databaseを使用して抗菌薬の有効性を検討しています。対象となったのは、
- 18歳以上
- 2015-2016に喘息で入院
- ステロイドの治療を受けている
- 細菌感染を示唆するコードがない(肺炎など)
を対象にしています。
治療
治療は、抗菌薬を
- 入院2日以内に開始し
- 最低でも二日以上している患者
と指定してます。抗菌薬はマクロライド、キノロン、セフェム、テトラサイクリンで分けています。2日目以降に抗菌薬を投与された患者は、「抗菌薬治療なし(初期に)」と見なされています。
アウトカム
研究のアウトカムは、
- 入院日数
- 機械換気
- ICU入室
- 死亡
- 30日以内の再入院
となっています。
患者背景
- 合併症
- 気管支拡張薬の併用:短期、長期
- キサンチンの使用
- 喫煙
- 気管支喘息の入院歴と回数:1年前の
などを集めて交絡因子として対処しています。
統計手法
統計手法は、
- ロジスティック回帰分析
- PSマッチング
- PSによる対処を行なった回帰分析
- IPTW: ATTを算出
- 操作変数法
を使用しています。操作変数には、その病院での抗菌薬の使用率を使用しています。
研究結果と考察
結果は以下の通りでした(論文より拝借)
治療失敗率は抗菌薬を使用してもほとんど下がっていないのが分かります。一方で、入院日数は抗菌薬使用グループの方が長い傾向にあります。異なる解析手法を用いても、似たような結論に至っているのが分かります。
そのほかのアウトカムとして、
- コストが余計にかかった
- 再入院率はほとんど変わらない
- 下痢のリスクは1.6倍
となっています。
まとめ
成人の結果になりますが、気管支喘息の患者で、細菌感染が示唆されないような状態であれば抗菌薬を使用するメリットはあまりなさそうです。
小児でどうなのかは気になるところですね。