今回はこちらの論文をピックアップしました。
海外における抗菌薬の適正使用の状況を知りたい方々に向けた研究論文ですね。
抗菌薬の適正使用が推奨されているけれど、実際に海外での状況は分からない点が多いと思います。
日本では小児においても抗菌薬の乱用がされてきましたが、他国(今回はスイス)の状況を把握して比較することは重要と考えています。
欧州と聞くと、なんとなく抗菌薬の適正使用が日本より進んでいそうなイメージですが、実情をしっかりとみてみましょう。
本記事では下記の内容を解説します。
本記事の内容
- スイスにおける抗菌薬使用状況
- 研究の方法
- 結果と考察
論文はJournal of Antimicrobial Chemotherapyという英文医学雑誌に掲載されています。
研究の背景
耐性菌の増加は現代医療において大きな問題の1つです。
抗菌薬というと入院患者に使用されているイメージが強いかもしれませんが、ほとんどの抗菌薬は外来で処方されています。
このため、外来において、ガイドラインなどに準拠して抗菌薬が適切に処方されているのかチェックする必要があります。
スイスでの抗菌薬処方の現状
スイスでは、抗菌薬の使用はEUの中で最も低いですが、まだ改善の余地があると考えています。
感染症の流行をモニタリングしたり、抗菌薬の使用状況を確認を行っていますが、国全体として系統だった解決策は見いだせていません。
過去に、抗菌薬の処方率の高いクリニックを中心にRCTを行い、抗菌薬処方のモニタリングとフィードバックを行いました。
今回はこちらのデータを使用して、疾患毎に抗菌薬の処方率を評価しています。
研究の方法
2015年の1月から、2900人の家庭医を対象にアンケート調査がおこなわれています。
- かぜ
- 扁桃炎/咽頭炎
- 中耳炎
- 鼻副鼻腔炎
- 急性気管支炎
- 市中肺炎
- 尿路感染症
の患者を44人連続でそれぞれの家庭医に記録してもらいました。
□患者背景
患者背景として、
- 年齢
- 性別
- 検査(CRP, WBC, 溶連菌迅速検査、レントゲン、尿検査)
- 抗菌薬の使用
を聴取しています。
研究の結果
250人の医師(8.6%)が調査に答えています(かなり少ないですね….)
また、対象になった患者は9961人でした。
疾患の分布は
- かぜ:25.4%
- 気管支炎:14.2%
- 扁桃炎・咽頭炎:8%
- 鼻副鼻腔炎:8%
- 尿路感染:6%
- 肺炎:5.4%
- 中耳炎:2.8%
となっています。
検査について
- CRP:46.6%
- 白血球数:42.0%
- レントゲン:6.1%
- 溶連菌迅速検査:5.1%
となっています。
CRPの計測は日本特有かと思いきや、スイスでもかなり検査しているのですね。
とある感染症科の先生から「外来でCRPを計測しているのは日本くらい」と聞いていたので、ちょっと意外でした。
抗菌薬の処方率
32.1%の外来患者に抗菌薬の処方がされていました。
このうち、許容範囲内の処方率は
- かぜ:2.7%(<20%)
- 肺炎:94.6%(90-100%)
- 尿路感染:89%(80-100%)
でした。
許容範囲と超えていた疾患は
- 咽頭炎・扁桃腺炎:44.4%(<20%)
- 急性中耳炎:49.6% (<20%)
- 急性鼻副鼻腔炎:27.4%(<20%)
- 気管支炎:41.5%(<30%)
となっています。
女性の尿路感染症のうち、37.2%ではキノロン系抗菌薬が処方されていました。
日本と比較してみても、かぜでの処方率はかなり低いですね(日本はおよそ30%)。
中耳炎での処方は20%以下が妥当とされていましたが、少し厳しすぎる気がしました。
その他は、かねがね妥当なラインでしょうが、咽頭炎、副鼻腔炎、気管支炎は日本と同様に過剰に処方されている傾向です。
まとめ
スイスでも抗菌薬処方の質は必ずしも高いとはいえず、扁桃炎、副鼻腔炎、中耳炎や気管支炎では過剰な処方がされていました。
一方でかぜへの処方率は低く、日本も見習うべき点があるといえます。
また、スイスでは抗菌薬の処方率や適正使用率をモニタリング・フィードバックするシステムを続けており、今後の効果にも期待したいところです。