- 「解熱薬を飲むとかぜの症状が長引く」
- 「病原体を退治するまでの時間が長くなる」
といった理由で、解熱剤の使用に否定的な医師は少なからずいます。
確かに発熱は病原体と戦っている証拠でもありますから、無理に下げるのはよくないのでは、と考え方にも一理あるとは思います。
私自身はこの考えに賛同しておらず「小児が発熱で辛いのであれば、解熱薬を使用しても良いのでは?」と考えています。
一方で、病原体の退治に時間がかかるなど、全く根拠がないわけでもありません。
こちらはマラリアに罹患した小児の研究ですが、解熱剤がマラリアの症状や病原体のクリアランスに与える影響をみています。
研究の背景について
マラリアについてはこちらで詳しく記載しています。
マラリアに罹患すると発熱しますが、熱は保護者や医療者にとってもこどもの体調の心配の種となります。
このため、アセトアミノフェン(paracetamol)を使用して、熱をさげることがあります。
一方で、マラリアに感染した場合、体は発熱することで病原体の増殖を抑制している側面もあり、解熱剤を使用することで、病原体の増殖を助長してしまう懸念があるようです。
そこで、今回の研究が行われました。
研究の方法
今回の研究は、1996年にガボンにある病院で行われ、
- P falciparum (熱帯熱マラリア)に感染
- 2−7歳
- 体温が38℃以上
- 8時間以内に解熱剤を使用していない
- 抗マラリア薬を使用していない
を対象に行われています。治療はランダムに、
- 抗マラリア薬 + 解熱薬
- 抗マラリア薬のみ
の2グループに分けています。
解熱薬は37.5℃以上であれば、6時間間隔でルーチンに投与しています。
解熱薬を使用しないグループは、扇風機やぬるま湯に浸したスポンジで体を拭いたりして、解熱させようと試みたようです。
アウトカムについて
研究のアウトカムは、
- 解熱するまでの時間
- 寄生虫のクリアランスまでにかかる時間
の2つをメインにみています。
解熱の定義ですが、「37.5℃以下が24時間以上」となっています。
研究結果と考察
合計で47人の患者が研究に参加しました。こちらが患者の背景の一部になります(論文より拝借)
マラリアのクリアランスについて
全体として、解熱薬を使用しないグループのほうが、早く病原体が血中から検出されなくなる傾向でした。
平均すると、解熱薬を使用したグループのほうが、クリアランスが達成されるまでの時間は16時間ほど長かったです(59時間 vs 75時間)。
体温について
詳細なグラフはありませんでしたが、解熱薬を使用したグループのほうが、平均体温は低い傾向にありましたが、統計学的な有意差には達していませんでした。
完全に解熱するまでの時間は、解熱薬を使用したグループのほうが11時間ほど早かったですが、統計学的な有意差はありませんでした(32時間 vs 43時間)。
考察と感想について
なかなか悩ましい結果と思います。
著者らは統計学的な有意差がないので”no benefit”とまで言っていますが、やや言い過ぎな気がしました。
例えば、解熱剤を使用したグループのほうが10時間ほど解熱が早い傾向にあるのも事実です。
ただ、この計測された効果の正確性が低い(分散が大きい)だけであって、”no benefit”と言い切るのは少し違うと思います。
一方で、解熱薬を使用した群のほうが、病原体を排泄する時間がやや長くなっています。
生体にとってマラリアのような病原体(寄生虫)が長く居座るのもあまり好ましくない気もします。
このあたりは、熱帯医学のエキスパートにも聞いてみたいところですね。
最後に、少し繰り返しになりますが、この研究は途上国でおこなわれた、マラリアが対象の研究です。
この研究結果をもって、小児のかぜでどうかを議論することは、ややナンセンスであることも忘れてはいけません。
まとめ
今回の結果では、マラリアに感染した小児において、解熱薬を使用したほうが、完全に解熱する時間は半日ほど短くなりますが、病原体を除去するまでの時間が長くなる傾向にありました。
類似の研究が小児のかぜでもないか、探してみようと思います。