急性胃腸炎の治療の基本は適切な栄養・水分摂取になりますが、近年は止瀉薬(下痢止め)が使用されていることがあります。
よく使用される止瀉薬の1つにロペラミドがありますが、この薬はオピオイドに類似した作用で腸の動きを弱め、下痢を止める作用があると考えられています。
腸の動きを止めると、当然ですが排便や放屁の頻度が減るため、場合によってはお腹が張ってしまうことがあります。最悪の場合、イレウス(腸閉塞)になる懸念もされています。
一方で、近年、acetorphanというenkephalinase inhibitorが開発されました。
この薬は、ロペラミドのように腸の動きは止めないけれども、腸液の分泌亢進を抑制し、水様性の下痢を抑える働きがあります。
今回の研究は、ロペラミドとacetorphanの有効性と副作用を比較した研究になります。
成人の研究になりますが、ロペラミドなどの止瀉薬同士を比較した重要な研究ですので、紹介させていただきました。
研究の方法
今回の研究は、
- 18歳以上
- 急性胃腸炎で下痢の期間が5日以下
- 水様性下痢が1日2回以上あり
などを対象に行われました。
治療について
治療は、
- Acetorphan
- ロペラミド
のいずれかをランダムに割付しています。
アウトカムについて
アウトカムは、
- 主治医による有効性の判断
- 下痢の遷延期間
- 2日後の改善
- 腹部膨満(一日以上)
- 下痢後の便秘
などを検討しています。
研究結果と考察
最終的に69人が研究対象となり、acetorphanが37名、ロペラミドが32名でした。
男性が8割、平均は40歳くらい、体重は60kgぐらいが平均でした。
アウトカムの比較
それぞれのアウトカムを比較してみましょう
Acetorphan | ロペラミド | |
有効と判断 | 91.9% | 87.5% |
下痢の期間 | 2.2d | 2.3d |
2日目までの改善 | 59.3% | 50.0% |
腹部膨満の期間 | 1.1d | 1.8d |
1日以上の腹部膨満 | 27% | 50% |
腹痛 > 1日 | 40.5% | 59.4% |
下痢後の便秘 | 8.1% | 31.3% |
となります。
下痢の期間や主治医による有効性の実感はacetorphanとロペラミドでは、ほとんど変わりませんでした。
一方で、ロペラミドに懸念される腹部膨満の期間や頻度、下痢が終わった後に便秘になるなど、お腹の動きに関する副作用はロペラミドの方が多かったです。
考察と感想
ロペラミドとacetorphanを比較していますが、臨床的な改善はほぼ同じか、ややacetorphanの方が良さそうという印象でした。
副作用をみると、ロペラミドの方が腹部膨満や便秘などのリスクがやや高そうに見えます。
私個人としては、小児の下痢に対してロペラミドを使用するケースはないのですが、その理由として副作用の懸念があります。
症例報告レベルになってしまうのですが、
- 腸閉塞を起こした
- Toxic megacolonを起こした
といったケースレポートは複数あります。とはいえ、ケースレポートのみでは因果関係を証明するのは困難で、今回の研究のように定量的にロペラミドの副作用の頻度の高さが示されると、わかりやすいと思いました。
今回の研究では腹部膨満や下痢後の便秘など、それほど重篤なものではありませんが、研究のサイズを大きくすると腸閉塞が出てくる可能性もあり得るかと思いました。
この辺りは、他の研究もされていないか、リサーチが必要そうですね。
まとめ
今回の研究では、acetorphanとロペラミドを成人の胃腸炎で比較し、ロペラミドの方が腹部膨満や下痢軽快後の便秘の頻度が多かったです。
ロペラミドには重篤な副作用の報告も複数あり、慎重な投与が必要と思われます。
小児科外来でも下痢で受診される患者さんは沢山いますが、小児が下痢や嘔吐をした場合、まず重要なのは、適切な水分摂取と塩分・糖分の補給です。
経口補水液は腸から吸収されやすいように組成が組まれているので、オススメです。
パウダータイプもありますので、ボトルで場所を取られたくない方はこちらを利用しても良いでしょう。
ポカリスエットなどは、塩分が少なく、糖分や浸透圧が高い傾向にあるので、小児の下痢時にはやや不向きかもしれません。お茶も水分だけになってしまうので、意識的に塩分や糖分を摂取できるようにすると良いでしょう。