前回まで、最新の胃腸炎と整腸剤(プロバイオティクス)の研究結果をご紹介してきました。
これらの結果は、あくまでもアメリカとカナダにおける救急外来でのセッティングでの結果です。
整腸剤(プロバイオティクス)は1〜5歳くらいの小児にあまり効果がなさそうという印象を受けましたが、この結果をどこまで一般化するかの判断は難しいです。
例えば、他国でも同じ結果になる保証はありませんし、外来ではなく入院患者においても同様の結果かはわかりません。
そこで、今回こちらの研究結果をピックアップしました。
子供が下痢した時のホームケアの基本ですが、
- 水分・糖分・塩分をしっかり摂取する
です。また、整腸剤(プロバイオティクス)の有効性を検証した研究は多数ありますが、どうやら使用されている菌株によって効果は異なるかもしれず、
- Lactobaccilus GG
- Saccharomyces boulardii
という2菌株が最もよく研究されているようです。
別の菌株になりますが、
- Lactobaccilus reuteri (L. reuteri)
があり、この菌は母乳中や消化管からよく検出されるようです。
今回はこちらの菌株を使用した研究になります。
研究の目的
今回の研究はトルコ国内で多施設ランダム化比較研究が行われました。対象となった小児は、
- 生後3ヶ月〜60ヶ月
- 水様性下痢が12-72時間持続
- 入院治療が必要
- 脱水は軽度〜中等度
です。対象患者はランダムに、
- Lactobaccilus reuteri (L. reuteri)
- 治療なし
が割り当てられています。
アウトカムについて
研究のアウトカムですが、
- 下痢の期間
- 入院日数
- 下痢の回数
などを計測しています。
研究結果と考察
最終的に127人の小児が研究に参加し、
- 乳酸菌あり:64人
- 乳酸菌なし:63人
と治療が割り当てられました。
乳酸菌を使用したグループとしていないグループでは、年齢・性別・治療開始までの下痢の期間、排便回数などは大きな差はなさそうでした。
アウトカムについて
まず下痢と入院期間ですが、
乳酸菌 | あり | なし |
下痢の期間 | 70.7 hrs | 103.8 hrs |
入院日数 | 4.3 日 | 5.5日 |
以上のように、乳酸菌製剤を使用したグループの方が下痢の期間が短く、入院日数も短縮傾向にありました。
こちらのグラフは排便回数を記録していますが、乳酸菌を使用したグループの方が排便回数も少なくなっています。
考察と感想
こちらの結果を見ると、入院が必要なくらいの乳幼児には、乳酸菌(Lactobaccilus reuteri )が下痢の頻度を減らしたり、入院期間を短縮したりと、有効そうな印象を受けます。
気になる点としては、やはり盲検化が不十分な点です。
盲検化が不十分だと、評価する側も治療を受けているか否かでアウトカムの計測値にブレが出やすくなります。
そのため、バイアスが入り込んでしまうケースがあります。
このようなバイアスのことを、情報バイアス(information bias)と言います。情報バイアス(information bias)には、
- 計測エラー:measurement error
- 誤分類:misclassification
の2種類がありますが、前者は連続変数(入院日数、下痢の持続時間など)、後者はカテゴリカル変数(yes/noなど)のエラーを言います。
文面を読むに、盲検化されていたのは解析者のみで、おそらく主治医も患者も薬が投与されたか否かわかった状態でした。
せっかく120名以上の患者が参加したRCTですので、盲検化をもう少し強固にしても良かったのではと感じてしまいました。
まとめ
今回の研究では、3ヶ月〜5歳児の下痢による入院患者において、乳酸菌(Lactobaccilus reuteri )が下痢の頻度を減らしたり、入院期間を短縮する効果がありそうでした。
しかし、今回の研究は盲検化が不十分であり、バイアスが入り込んでいる可能性はあり得ます。