グアイフェネシン(guaifenesin)という薬をご存知でしょうか。
実は成人・小児の市販薬に含まれていることが多々あります。例えば、こどもかぜシロップでは、
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宇津こどもかぜシロップA
-
キッズバファリンかぜシロップP
があげられます。
(*推奨ではありません)
グアイフェネシン(guaifenesin)の作用機序ですが、添付文書を参考にしてみると以下のように記されています:
粘稠性及び表面張力の減少により気道内粘液の排出を強め、去痰作用を示す。分泌物の粘稠性が減少し 流動性が増すことにより、線毛運動が促進され、粘液の排出を容易にする。これにより乾性咳を湿性咳 に転じ咳を鎮める。
(参照はこちら)
気道分泌物をより多く出すことで、痰の粘稠性や表面張力が下がり、その結果、気道に付きづらく、痰として排出しやすくなると考えられているようです。
このため、「気道にからんだ痰を咳で出しやすくする医薬品(去痰薬)」として知られています。さらに、咳や痰がらみを軽快させるのを目的に、市販薬に含まれることがあるのでしょう。
今回は、この成分が実際に風邪において有効かを検討した研究をご紹介してみようと思います。
- アメリカの12歳以上の急性呼吸器感染症において、グアイフェネシンの有効性を検討
- グアイフェネシンは痰の症状がやや軽快するかもしれないが、風邪症状の全体の満足度は改善させなかった
お薬検索というサイトで「グアイフェネシン」と入力すると、44種類の市販薬が出てきました。
こどもの市販のかぜ薬の成分によくあるグアイフェネシンの作用機序と有効性は?
研究の背景
グアイフェネシンは上気道感染の症状を改善するために使用される。
上気道症状の改善を評価するには、患者が報告したアウトカム指標が有用である。
しかし、粘液活性薬の有効性を評価する有効なツールは存在しない。
このパイロット研究において、主観的な指標を用いて、徐放性グアイフェネシンの有効性を評価した。
具体的には、上気道感染症の患者への治療として、徐放性グアイフェネシンまたはプラセボを投与し、有効性を評価し、さらに指標の妥当性の評価をした。
研究の方法
治療
このパイロット試験は無作為二重盲検試験で、患者に
- 徐放性グアイフェネシン 1200 mg (188例)
- プラセボ (190例)
のいずれかを12時間ごとに7日間投与した。
アウトカム
アウトカムは、
- 毎日の咳と痰の日記
- 自発的な症状の重症度評価
- Wisconsin上気道症状調査
など、主観的な指標を用いて評価した。
研究終了時の評価は、患者および研究者によって完了された。
その他
妥当性の研究は2つのフェーズで行われた。
第I相では、毎日の咳と痰日記、自発的な症状の重症度評価、および患者の治療終了の評価の妥当性を検証するために、対象者に面接を実施した。
第II相試験では、パイロット試験のデータを用いて、第I相試験で評価された項目のの精神測定学的特性を検討した。
研究の結果
プラセボと比較して、グアイフェネシンを投与されたグループは、4日目の主観的な計測値が改善する傾向にあった。
8症状から構成される咳と痰の日記の質問票が、さらなる評価を行うのに最も良い指標と思われた。
第I相での聞き取り調査の結果は、第II相で検証された評価の内容を支持し、忍容性は良好であった。
研究の結論
このパイロット試験および妥当性研究からの結果は, SUM-8日記スコアが、粘膜活性薬剤(主にグアイフェネシン)の研究におけるエンドポイントとして頑健で信頼できることを示した。
治験登録:本試験はclinicaltrials.gov (NCT 01046136) に登録
考察
アブストラクトを読んだだけですと、内容を掴むのが難しかったかもしれません。この研究のテーマは2つでして、
- グアイフェネシンの有効性の評価
- 去痰薬などの有効性を評価するため、アウトカムの指標の妥当性を検証する
です。
グアイフェネシンは感冒症状に有効だったのか?
12歳以上で5日以内の感冒症状(特に痰)のある方が対象だったようです。
参加者は、最終日に「治験薬は効果がありましたか?」という質問に答えることによって、治療の有効性の総合評価がされています。
「0=全く有効でない、1=ある程度有効、2=中程度有効、3=非常に有効、4=非常に有効であった」のいずれかを答える形式だったようです。
全体的な評価は以下の通りです:
グアイフェネシンを使用したグループの方が、「全く有効でない or ある程度有効」と答える人がやや少ない印象ですが、統計学的な有意差は認められなかったようです。
副作用に関してはほぼ同じでしたが、
- 神経系の疾患(詳細な記載なし): 0.5% vs. 3.7%
- 頭痛: 0.5% vs. 2.6%
とグアイフェネシンの方がやや多い傾向だったようです。
アウトカムの指標は?
アウトカムの指標は
- DCPD: Daily Cough and Phlegm Diary
- SSA: Spontaneous Symptom Severity Assessment
- WURSS-21: Wisconsin Upper Respiratory Symptom Survey
DCPD: Daily Cough and Phlegm Diary
DCPDは、日記形式で症状に関する質問8つ、社会的な機能に関する質問3つで構成されているようです。
24時間において
- 痰は何回出ましたか?
- どのくらいの頻度で痰のために呼吸が苦しくなりましたか?
- 痰を出しながら他の人に迷惑をかけることに不快感を覚えたことはありますか?
- 痰にどれくらい悩まされましたか?
- どのくらいの頻度で痰が会話の妨げになりましたか?
- 痰のために公共の場所に行けなくなった回数はどのくらいですか?
- 痰を切るために普段の活動を何回中断しなければなりませんでしたか?
- 痰の濃さはどのくらいでしたか?
- 痰を出すのはどのくらい大変でしたか?
- 朝起きたとき、咳はどのくらい出ましたか?
- 今日は1日に何回くらい咳が出ましたか?
という内容でした。
評価は「“never”, “rarely”, “sometimes”, “often”, or “always”」の5点評価
SSA: Spontaneous Symptom Severity Assessment
以下の3項目について、0〜5点(0, なし; 5 最悪)で採点
- 痰がらみ
- 痰の厚さ
- 咳
WURSS-21: Wisconsin Upper Respiratory Symptom Survey
この指標は、
- 症状に基づく10の項目
- 機能的な9の項目
- 全体の変化
から構成されているようです。調べてみたところ、こちらからダウンロード可能でした。
妥当性の検証は12名の対象患者で行われたようですが、かねがね良好だったようです。
感想
本文を読んでいただくとわかるのですが、色々とデータをこねくり回している印象を受けてしまいました。「4日目に改善」とありますが、その数値の記載なく、ただP値が置かれているという状況です。しかも、相当数の検定をしているわけですが、それに対する補正などもありません。
あと、痰切りとして使用したのであるなら、それに関連する症状の点数のみに注目したらよかったのではないかと思いました。
妥当性の検証に関しても、11名行っただけで、本文を読んでちょっとがっかりしたのが本心です。
まとめ
今回は、アメリカの12歳以上の急性呼吸器感染症において、グアイフェネシンの有効性を検討しています。
グアイフェネシンを使用しても全体の評価としては有効性はみとめられなかったですが、痰の症状に関しては4日目に実感される方がやや多かったようです。
小児の市販薬に含まれているグアイフェネシンに関するまとめは、以下のnoteに記載しています。
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