今回はこちらの論文をピックアップしました。
1991年の論文とちょっと古めの研究ですが、小児のかぜ薬のエビデンスをみた貴重な研究ですのでとりあげました。
アメリカにおいても小児のかぜ薬は市販薬・処方薬として使用されているようですが、1990年時点でも科学的根拠が不十分で、その使用について疑問がなげかけられていました。
ひょっとしたら「なぜ科学的根拠(エビデンス)がないのに処方するの?」と思われるかもしてません。
医師がこれらの薬を処方する理由は2つ考えられ;
- 医師の経験則(効いているという実感)
- 保護者からの要求に応えるため
の2点に集約されます。
研究の目的
こちらの研究は以下の3点を明らかにすることが目的です;
- かぜの症状に対して薬が必要と考える人の割合
- 抗ヒスタミン・充血除去薬の小児のかぜに対する有効性を検証
- かぜ薬の処方希望とアウトカム(保護者からみた小児のかぜ症状)に関連があるか
研究の方法
今回の研究は1983〜1986年にアメリカにあるボルチモア(Johns Hopkins University)を中心に行われました。
- 6ヶ月〜5歳
- アレルギー症状なし
- かぜ症状がある
- 高熱(>39℃), 嘔吐、下痢などがない
- 抗ヒスタミン薬や充血除去薬が禁忌でない
患者を対象に研究が行われています。
まず保護者は子供に9つの症状について質問をされています;
鼻汁 | 呼吸苦 | 発熱 |
咳 | 食欲低下 | 不機嫌 |
眠気 | 睡眠障害 | 嘔吐 |
それぞれの症状に0〜3点(0:全くない、3:常にある)で評価をしています。
その後に以下の3つのグループのいずれかをランダムに割付ています:
- 抗ヒスタミン+充血除去薬
- プラセボ(偽薬)
- 薬なし(何も介入しない)
抗ヒスタミン・充血除去薬かプラセボを受け取った保護者はこどもに1日3回、2日間の治療をしました。
薬なしの保護者は何も受け取らずに経過観察のみをしています。
アウトカム
アウトカムの評価ですが、
- 初日に評価した9つのかぜ症状のスコア
- それぞれのスコアの差(初日 vs 2日後)
がメインです。
研究結果と考察
371人がリクルートされ、132(46%)人の患者が研究対象となりましました。
このうち、研究の参加に同意してくれたのは96人(73%)でした。
治療のランダム化を行い、以下の結果になりました。
抗ヒスタミン薬 充血除去薬 |
プラセボ | 薬なし | |
初日 | 36人 | 27人 | 33人 |
2日後 | 30人 | 24人 | 30人 |
最終的にどのグループも1〜2割ほど追跡不能となっています。
研究で処方された薬以外の内服薬を使用したか?
3つのグループで、この研究以外で処方された薬以外の内服薬を使用したのかみています。
抗ヒスタミン薬 充血除去薬 |
プラセボ | 薬なし | |
使用した | 3人 | 0人 | 9人 |
合計 | 30人 | 24人 | 30人 |
病院でかぜ薬やプラセボすらもらえなかった保護者は、解熱剤や市販のかぜ薬を探して投与していたようです。
個人的に印象深い結果です。
かぜ薬の科学的根拠をシリーズ形式でずっととりあげていますが、「エビデンスがないから」とこどものかぜに処方しなくても、保護者の方々としてはかぜ薬が欲しいので、ドラッグストアで購入したり、他院に受診して処方してもらうことが、数字として浮き彫りになった気がします。
かぜ薬は必要と考えているのは?
ランダム化をする前に「かぜの症状に薬は必要だと思いますか?」と保護者に聞いていますが、およそ6〜7割のかたが「必要だと思う」と答えました。
抗ヒスタミン薬 充血除去薬 |
プラセボ | 薬なし | |
使用した | 24人 | 19人 | 20人 |
合計 | 36人 | 27人 | 33人 |
かぜの症状は軽快したか?
ランダムに3つの異なる治療方針を割り当てましたが、48時間後に「かぜの症状は軽快した」と評価した保護者は以下の通りになります。
抗ヒスタミン薬 充血除去薬 |
プラセボ | 薬なし | |
改善した | 20人 (67%) |
17人 (71%) |
17人 (57%) |
合計 | 30人 | 24人 | 30人 |
プラセボと抗ヒスタミン薬にはアウトカムにほとんど差がありません。
一方で、プラセボと薬なしには14%ほど差があります。この差を「プラセボ効果」といいます。
詳細な結果はこちらになります(原著のTable 1より)。
考察と感想
60~70%の保護者が「かぜ薬が必要」と考えている結果は興味深かったです。
病院に受診するくらいですから「薬は必要」と考える方の割合が多いのは納得できますし、逆に3−4割の方は必ずしも必要ではないと考えていたのでしょうか。
抗ヒスタミン薬・充血除去薬がプラセボ(偽薬)と比較して有効性がないのは、その他の研究と一致しています。
反面、無治療とプラセボでは「改善した」と感じる方が少なからず異なるようです(統計学的な有意差はありませんが)。
かぜの治療においてもプラセボ効果を認めることがある点も非常に興味深かったです。
まとめ
今回の研究では抗ヒスタミン薬・充血除去薬の有効性を証明することはできませんでした。
また、統計学的な有意差はありませんが、小児のかぜに対してプラセボ効果は多少は存在するのかもしれません。
また「処方しない」という選択をした場合、一定の割合で保護者の方々は別のルートで薬を使用する可能性があることも、医師として留意しておく必要があると思います。