科学的根拠

抗ヒスタミン薬は熱性けいれんの持続時間を長くするかもしれない

熱性けいれんは小児で最もよく起こるけいれんでして、5歳以下の小児で起こりやすいです。
明確な理由は不明ですが、日本人で罹患率が高く、小児の7%-8%程度が熱性けいれんを起こすと考えられています。

子供のかぜと抗ヒスタミン薬(ペリアクチン、ポララミン)の副作用 「鼻水が出ているので、止める薬をください」 と小児科外来でお願いされることが多々あります。 ですが、風邪に対する鼻水止め(...

こちらの記事でも少し触れていますが、小児に「鼻水止め」として処方される抗ヒスタミン薬は、様々な副作用があるため問題視されています。
その1つに熱性けいれんの持続時間が長くなる点があり、過去にも観察研究が行われています。
過去の報告で多いのは第一世代の抗ヒスタミン薬に関してで、第二世代の抗ヒスタミン薬についても詳細な検討をした研究が少ないです。

そこで今回の研究が行われています。

研究の方法

この研究は2009-2011年にサウジアラビアのMadinash Maternity and Children’s hospitalで行われました。
対象となった小児は、

  •  38℃以上の発熱あり
  •  熱性けいれんの定義を満たす
  •  慢性疾患はなし

を満たす250人の小児です。

けいれんを起こした小児の保護者から、けいれんの持続時間やタイミングを聴取しています。

抗ヒスタミン薬によって3つのグループに分けています。

なし  
第一世代 クロルフェニラミン、dimethindene
第二世代 セチリジン、ロラタジン、ケトチフェン

 

研究結果と考察

こちらが対象患者の基本情報の分布になります。

  抗ヒスタミン
n = 84
コントロール
n = 166
男女比 12 : 10 14 : 11
月齢 26.8
(19.5)
29.8
(17.4)
家族歴 51.2% 48.2%
体温 39.1℃ 39.3℃

月齢は抗ヒスタミン薬のグループの方がやや低そうで、家族歴も多そうですね。

抗ヒスタミン薬の内服あり vs なしで比較

抗ヒスタミン薬の内服あり vs なしで

  •  発熱からけいれん発作までの時間
  •  けいれん発作の持続時間

を比較した表が以下の通りになります。

抗ヒスタミン薬の内服 あり なし
発症までの時間(時)
(SD)
2.99
(0.39)
4.27
(1.36)
持続時間(分)
(SD)
9.0
(6.1)
4.5
(4.3)

となっており、抗ヒスタミン薬を内服していたグループの方が、

  •  発熱〜発症までの時間が早い
  •  持続時間も長い

傾向にあるのがわかります。

抗ヒスタミン薬の種類別 vs なしで比較

第一世代の抗ヒスタミン薬 vs 第二世代 vs なしで

  •  発熱からけいれん発作までの時間
  •  けいれん発作の持続時間

を比較した表が以下の通りになります。

抗ヒスタミン薬 第一世代
n = 55
第二世代
n = 29
なし
n = 166
発症までの時間(時)
(SD)
2.5
(0.79)
3.01
(0.37)
4.27
(1.36)
持続時間(分)
(SD)
9.3
(14.2)
6.0
(6.1)
4.5
(4.3)

となっています。

発熱してから発症するまでの時間は、

  •  第一世代 < 第二世代 < なし

の順に短かったです。
ひょっとしたら抗ヒスタミン薬の方が脳に作用をして、発熱から発症までの時間を短くさせた可能性があり得ます。

さらに、熱性けいれんの持続時間は、

  •  第一世代 > 第二世代 > なし

の順で長いです。
脳への作用が強いと言われている第一世代の抗ヒスタミン薬を内服したグループが最もけいれんの持続時間が長くなっています。
これは過去の研究とも一致していますね。

感想と考察

この研究でもいくつか気になる点があります。
例えばケトチフェンの扱いです。以前、下の記事でもご紹介したのですが、ケトチフェンは第二世代と言われることもありますが、脳への作用が強いと考えられています。

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このため、セチリジンやロラタジンと一緒のグループにしてしまったことに違和感があります。
薬の副作用という点では、誤分類とも言えるかもしれません。

あと、グループ間で年齢構成がやや異なります。(乳幼児の3ヶ月の違いは大きいです)
ひょっとしたら薬の適応などの問題もあったのかもしれません。
サウジアラビアの事情は全然わからないのですが、例えば抗ヒスタミン薬の適応年齢の関係でこのような差ができているのかもしれません。
年齢は統計学的に対処した方が良いと思うのですが、今回はされずに結果が提出されています。
その点は差し引いて解釈した方が良さそうです。

単に月齢による持続時間の違いを見ているのか?本当に薬のせいなのか?

まとめ

今回の研究では抗ヒスタミン薬を内服していると、発熱〜熱性けいれんまでの時間が短縮し、さらにけいれんの持続時間が長い傾向にありました。

特に第一世代の抗ヒスタミン薬でこの傾向は顕著でしたが、第二世代だから大丈夫とは言えない結果です。

研究の質にも少し疑問が残りますので、他の研究結果を見つつ、総合的に判断できればと思います。

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。