- 「解熱薬を使用すると、熱性けいれんが再発するから、使ってはダメ」
と小児科外来で指導されていることがあります。
割と年配の医師に多い傾向な気がしますが、その方から指導を受けて、指導内容にあまり疑問を持たない若手医師だと、考え方がそのまま引き継がれていることもあります。
解熱薬と熱性けいれんの再発を確認した研究は複数ありますので、1つずつ取り上げていきたいと思います。
熱性けいれんと解熱薬について
熱性痙攣は小児にありふれた疾患で、海外では小児の3〜5%ほど、国内では7〜8%ほどは熱性けいれんを発症すると推定されています。
ほとんどの熱性けいれんは脳に悪影響はしないと考えられていますが、例えば再発を予防することで、
- 保護者の不安を取り除くことができる
- けいれん重積のような長い発作を起こりにくくできる
といったメリットが考えられます。
確かに、過去の研究では、熱性けいれん後に保護者の不安が増大していたと報告されたものがあります。
小児科外来では、保護者の方々の不安に向き合うことも仕事の一部ですから、こうした背景を把握しておくことも重要でしょう。
一方で、
- 「解熱薬を使用すると熱性けいれんが再発しやすくなる」
- 「解熱薬を使用すると熱性けいれんの再発は予防できる」
など、いろんな定説が出回っており、保護者の方々からすると、あるいは熱性けいれんに詳しくない医師からすると、どの定説が正しくて、どこがおかしいのかの判断は難しい面もあります。
今回の研究は、解熱薬で熱性けいれんの再発がどう変化するかを確認した研究を紹介します。
研究の方法
今回の研究は1994-1996年にオランダで行われたランダム化比較試験です。
- 過去6ヶ月で熱性けいれんを起こしたことがある
- 1〜4歳
- 以下のいずれかを満たす:
・ 熱性けいれんの家族歴がある
・ 40度以下で熱性けいれん
・ 熱性けいれんを再発したことがある
・ 複雑型熱性けいれん
を対象に行われました。治療は、
- イブプロフェン 5 mg/kg
- プラセボ
のいずれかで、38.5℃以上の発熱時に投与するように指導されています。
解熱後24時間経過するまで6時間毎に使用する方針としています。
治療開始後は、1日1度は担当医に電話して、熱性けいれんの再発がないかを確認しています。
研究結果と考察
最終的に230人が研究に参加して、
- イブプロフェン:111人
- プラセボ:119人
となっています。こちらが患者背景になりますが、治療グループで大きな違いはなさそうです。
けいれんの再発について
こちらがけいれんの再発をみた結果となります。
図の一部を論文から拝借しています。
少し見づらいので2 x 2 Tableにしてみましょう。(I = イブプロフェン、P = プラセボ)
I | P | |
再発 | 31 (28%) |
36 (30%) |
合計 | 111 | 119 |
どちらのグループも30%ほどの再発率で統計学的な有意差はありません。
Risk Ratioに直すと、
- RR = 0.92 (95%CI, 0.62–1.38)
となります。(計算の証拠は以下↓)
治療開始から再発するまでの期間
こちらのKaplan Meyer曲線は、治療開始から再発するまでの期間をプロットしています。
イブプロフェンもプラセボもほど同じような曲線を描いています。
考察と感想
- 「解熱薬は熱性けいれんを再発させるからダメだ」
と主張する小児科医は少なからずいます。
その反面、今回の研究では解熱薬(イブプロフェン)を使用して、長期的に経過を追っても再発のリスクは高くはなく、統計学的な有意差は無いく、むしろ再発のリスクが低くなっているようにも感じます。
少なくとも私は「解熱薬は熱性けいれんを誘発する」という根拠の大元(文献など)を知りません(もし、ご存知の方がいたら、Twitterやお問い合わせから教えていただけると幸いです)
まとめ
今回の研究は1ー4歳の熱性けいれんの既往がある患者を対象に、解熱薬が熱性けいれんの再発にどう影響するかをみています。
熱性けいれんの既往があるお子さんに解熱薬を使用しても、少なくとも再発のリスクが高まる傾向にはなく、むしろ(統計学的な有意差はないですが)若干ですがリスクが低くなるのかもしれません。