まずは熱性けいれんのおさらいですが、
- 国外(主に欧米)での発症率は2%〜5%
- 国内では7%〜8%ほど(著者らは〜11%と記載)
- 再発率は〜15%ほど
とわかっています。
大半の小児科医は熱性けいれん後に解熱薬を使用しても、熱性けいれんの再発を誘発しないと考えています。
現に過去の研究結果をみても、「解熱薬は熱性けいれんの再発を予防するかもしれない」「あまり影響はなさそう」という2つのタイプの結果が多かったですが、少なくとも「けいれんを誘発した」とする科学的根拠はありません。
そこで、今回は日本国内で行われた研究をとりあげました。
熱性けいれん後に解熱薬を使用したら、けいれんの再発が予防できるか確認をしています。
研究の方法
今回の研究は、日本の単施設で行われたランダム化比較試験で、
- 6ヶ月〜5歳
- 熱性けいれんのため受診した患者(2015-2017年)
- 同じ発熱期間で熱性けいれんを繰り返していない
- 直近のけいれんは15分以内
- 慢性疾患がない
- ジアゼパム(ダイアップ®︎)は使用していない
- 抗ヒスタミン薬は使用していない
を対象に行われました。治療は、
- 最初のけいれん後、6時間毎に24時間にわたり解熱薬を使用
- 無治療
となっています。Open trialのため、プラセボや盲検化は行なっていません。
アウトカムとして、
- けいれんの再発率
をみています。
研究の結果と考察
合計で423人が受診し、
- 219人が解熱剤を
- 204人は無治療を
ランダムに割り付けられました。
けいれんの再発率について
熱性けいれんの再発率ですが、以下の通りでした。
9.1% vs 23.5%で、統計学的な有意差がありました。
解熱薬 | あり | なし |
再発あり | 20 (9.1%) |
48 (23.5%) |
合計 | 219 | 204 |
Risk RatioやRisk Differenceに直して解釈してみましょう。
- Risk Ratio(リスク比):0.388
- Risk Difference:-0.144
となっています。治療によって14%ほど熱性けいれんの再発が予防でき、リスクは(1 – 0.388) = 62%ほど現象します。
95%CIも帰無(RR = 1, RD = 0)から大きく離れており、有効性が非常に強く示唆される内容でした。
考察と感想
ランダム化比較試験で熱性けいれんに対して解熱剤を使用すると、同一エピソード内であれば再発が予防できそうという結果でした。
国内では「熱性けいれん後に解熱剤はNG」という小児科医も少なからずおり、このような研究がされた意義は大きいと考えています。
過去の国外の研究と総合的に考えても、少なくとも解熱剤を使用しても熱性けいれんは誘発しそうにないですし、むしろ予防効果を示唆する文献のほうが多いです。
今回の研究のlimitationとしては、RCTで盲検化がされていない点があげられます。
RCTで盲検化されていない場合、アウトカムの評価に影響してしまう可能性があります。
例えば、薬をもらえなかった親は、けいれんの再発が心配でこどもをよく観察したため、けいれんの再発をより報告しやすかった、などが考えられます。
こちらのDAG(Directed Acyclic Graph)をみていただけるとわかりやすいと思いますが、ランダムは患者背景と治療の関連性を切断してくれます。
しかし、盲検化がされていないと、アウトカムへの計測エラーの経路が生じてしまい、これがバイアスとなる可能性があります(治療→計測エラー→再発)。
バイアスの方向はどちらもありえて、例えば RR = 0.39は過小評価されている場合も、過大評価されている場合もあります。
ですが、感覚的な話になってしまいますが、今回の研究で計測エラーのみで説明可能か(つまり本当は有効性がないか)といわれると、おそらくその可能性は低いと考えています。
まとめ
今回の研究では熱性けいれん後に解熱薬を使用すると、同一の発熱エピソード内であればけいれんの再発を予防させる可能性が示唆されました。
これまでの研究と照らし合わせても、熱性けいれんのあるお子さんに解熱薬を使用しても、けいれんは誘発させなさそうですし、予防効果が示唆されています。
著者らも原文で述べていますが、熱性けいれんは基本的に良性のけいれん発作ですので、ルーチンで(つまり遭遇した患者すべてに)解熱薬を予防目的で使用すべきかは、慎重に考えた方が良いでしょう。