科学的根拠のある子育て・育児

小児の急性胃腸炎で「腸を休ませる」必要はあるのか?[アメリカ編]

  •  下痢の時は腸を休めましょう

という医療者からの指導があるようです。

つまり、小児が胃腸炎で下痢がある場合、腸が荒れているから、食事は無理に取らず、経口補水液などで無理をせずに必要な水分や塩分、糖分を摂取しましょうという発想のようです。

意外に思われるかもしれませんが、胃腸炎による下痢の時に、無理に食事制限や母乳・ミルクの制限をする必要はないと、過去のデータは述べています。むしろ、食事を制限して、水分のみで過ごすと、かえって下痢の期間が長引くというデータすらあります。

今回は、そのエビデンスを見ていきましょう。

ポイント

  •  乳児を対象とした研究
  •  胃腸炎の下痢のとき、ミルクや母乳の再開タイミングを検討
  •  飲める状況なら、特別に遅らせる必要はなさそう
マミー
マミー
下痢のとき、食事やミルクはどうしたらいいですか?

Dr.KID
Dr.KID
過去の論文を見てみましょう。

小児の下痢のときに

  •  腸をやすめてください

といった指示もあるようです。ですが、これらの指示はほとんどが科学的根拠がありません。

嘔吐がひどくなく、飲食可能である状況なら、食事や飲み物、母乳や人工乳に特別な変更は必要ないと私は考えています。

 研究の概要

今回は、アメリカで行われたランダム化比較試験(RCT)をご紹介します。

 対象患者

今回のRCTは90人を対象に行われました。対象となったのは、

  •  0〜12ヶ月
  •  下痢の回数 >  4/日

のある入院した乳児が対象です。

治療

治療は、経口補水液または点滴によるを脱水の補正を行ったのちに、ランダムに

  •  豆乳でできた人工乳(乳糖フリー)
  •  48時間は経口補水液のみ

で行い、下痢の量と期間を比較しています。

研究結果

結果は以下の通りでした:

再開 すぐ再開 48時間後
N 43 44
下痢の量, ml/kg
(SD)
121
(129)
299
(319)
期間, 時間
(SD)
54
(28)
93
(56)

飲める状況で荒れば、むしろ人工乳を飲んだ方が成績は良かったです。つまり、「腸を休ませる」ために経口補水液だけの摂取にすると、かえって下痢の量は増え、下痢の期間も長引くようです。

 感想と考察

今回の研究結果では、乳児が対象ですが、胃腸炎による下痢のときに、特別、ミルクや母乳の再開を遅らせる必要はなさそうです。

時に、「腸を休ませるために、ミルクや母乳は一旦中止」「ミルクを薄めてください」といった指示をしている医師もいるようですが、過去のデータをみるかぎり、あまりメリットはなく、むしろ下痢が長引く、かえって下痢の量が増える、体重の回復が遅れるという報告が複数あります。

Dr.KID
Dr.KID
下痢の時、ミルクや母乳を急にやめる必要はなさそうですね。

まとめ

今回は、乳児を対象に行われたRCTで、下痢のときに経口補水液の投与のみに制限すべきか、検討しています。

経口補水液にすると、かえって下痢が長引き、下痢の量も増える結果でした。

Dr. KIDの書籍(医学書)

小児のかぜ薬のエビデンスについて、システマティックレビューとメタ解析の結果を中心に解説しています。
また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
1冊で2度美味しい本です:

小児の診療に関わる医療者に広く読んでいただければと思います。

 

新刊(医学書):小児の抗菌薬のエビデンス

こちらは、私が3年間かかわってきた小児の抗菌薬の適正使用を行なった研究から生まれた書籍です。

日本の小児において、現在の抗菌薬の使用状況の何が問題で、どのようなエビデンスを知れば、実際の診療に変化をもたらせるのかを、小児感染症のエキスパートの先生と一緒に議論しながら生まれた書籍です。

created by Rinker
¥3,850
(2024/12/31 02:44:38時点 Amazon調べ-詳細)

 

Noteもやっています

かぜ薬とホームケアのまとめnote

小児のかぜ薬とホームケアの科学的根拠

 

小児科外来でよくある質問に、科学的根拠を持って答えるnote

保護者からのよくある質問に科学的根拠で答える

 

 

 

当ブログの注意点について

Dr.KID
Dr.KID
当ブログは医療関係者・保護者の方々に、科学的根拠に基づいた医療情報をお届けするのをメインに行なっています。参考にする、勉強会の題材にするなど、個人的な利用や、閉ざされた環境で使用される分には構いません。

Dr.KID
Dr.KID
一方で、当ブログ記事を題材にして、運営者は寄稿を行なったり書籍の執筆をしています。このため運営者の許可なく、ブログ記事の盗用、剽窃、不適切な引用をしてメディア向けの資料(動画を含む)として使用したり、寄稿をしないようお願いします。

Dr.KID
Dr.KID
ブログの記載やアイデアを公的に利用されたい場合、お問い合わせ欄から運営者への連絡お願いします。ご協力よろしくお願いします。

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。
RELATED POST