小児はかぜに罹患すると急性中耳炎を合併することがよくあります。
急性中耳炎にかかると抗菌薬を処方されるケースがよくありますが、それでも再発したり、完治できないケースもあります。
例えば、急性中耳炎に対して抗菌薬を使用後3〜6日間において、11〜19%のケースは中耳炎の症状が残っている(完治しない)と推定されています。
一方で、この症状が残っている人たちを対象に細菌培養などをしても、およそ3分の1の患者は細菌が検出されないようです。
さらに中耳炎に罹患した後
- 1ヶ月後:30%-60%
- 2〜3ヶ月後:15%-25%
が中耳に液体貯留していることがわかっています。
これらの結果から、急性中耳炎の治療は、中耳炎を起こしている病原体(細菌やウイルス)を退治するだけでなく、中耳への液体貯留を予防することも重要と考えるようになってきました(注意:1990年代の話です)。ここから、抗菌薬に
- ステロイド
- 抗ヒスタミン薬
を追加すれば、急性中耳炎後の中耳内の液体貯留や症状緩和につながると考え、今回の研究が行われました。
研究の目的
今回の研究はアメリカのテキサスで行われたランダム化比較試験です。
- 3ヶ月〜6歳
- 急性中耳炎に罹患
- 過去2回以上、急性中耳炎にかかったことがある
- 慢性疾患がない
- 抗菌薬の使用後7日以内
- (ステロイドを使用するため)水痘患者への接触歴がない
などを基準に対象者を決定しています。
対象者には、中耳炎の症状、耳鏡検査をしてい中耳炎の所見を確認しています。
中耳炎(とかぜ)に関連した症状は、以下の9つになります:
発熱 | 耳痛 | 不機嫌 |
食欲低下 | 鼻汁 | 鼻づまり |
咳 | いびき | めやに |
これらを0〜2点(0=なし;2=重度)で評価しています。
耳鏡での検査は、
- 鼓膜の位置
- 鼓膜の色
- 鼓膜の可動性
を0〜2点で評価しています。
治療は4つのグループにわけて、抗菌薬治療と
- 追加治療なし
- ステロイド(クロルフェニラミン)
- 抗ヒスタミン薬(プレドニゾロン 2mg/kg)
- ステロイド + 抗ヒスタミン薬
をランダムに割付ています。
アウトカムの評価
アウトカムの評価は、
- 初回:治療開始5日後
- その後:2週間毎
に行われています。3ヶ月以上にわたり両側に滲出性中耳炎がある場合、小児専門の耳鼻科医に聴力検査と鼓膜チューブ挿入術の適応を依頼しています。
アウトカムは、
- 最初の2週間での治療失敗率
- 中耳の液体貯留期間
- 再発率
- 耳鼻科への紹介率
- 鼓膜チューブ挿入術の実施率
をみています。
研究結果と考察
合計198人が研究に参加し、4つの治療方針のいずれかを受けています。
年齢構成は以下のようになっています:
3〜6ヶ月 | 15% |
6〜8ヶ月 | 22% |
9〜11ヶ月 | 8% |
1〜2歳 | 35% |
2〜3歳 | 8% |
3歳〜 | 11% |
最初の2週間以内での治療失敗率
治療開始2週間以内に治療失敗(他の追加治療が必要となった)した割合は以下の通りになります。
なし | S | H | HS | |
失敗例 | 10 | 7 | 11 | 5 |
失敗率 | 21.7% | 15.6% | 25% | 11.4% |
合計 | 46 | 45 | 44 | 44 |
*H = 抗ヒスタミン、S = ステロイド
失敗率のみをみると、抗ヒスタミン投与かステロイド+抗ヒスタミン薬を投与したグループのほうが低く見えますが、統計学的な有意差はありませんでした(P = 0.35)。
ややわかりづらいので、Risk Ratio(RR)にしてみてみましょう。
なし | S | H | HS | |
RR | Ref | 0.7 | 1.2 | 0.5 |
95%CI | – | (0.3, 1.7) | (0.5, 0.2) | (0.2, 1.4) |
P-value | – | 0.45 | 0.71 | 0.19 |
Point estimate(RR)のみをみると、ステロイドを使用したほうが失敗率は低いですが、95%信頼区間は広く不正確な推定になります。
中耳への液体貯留
こちらは中耳への液体貯留の期間をKaplan-Meyer曲線でみています。
抗ヒスタミンを投与されたグループは、 使用していないグループと比較すると、統計学的に有意に長かったようです(P = 0.04)。
その他のアウトカム
なし | S | H | HS | |
再発率 | 38% | 33% | 40% | 42% |
耳鼻科 紹介 |
26% | 22% | 36% | 18% |
チューブ 挿入 |
17% | 13% | 18% | 11% |
*H = 抗ヒスタミン、S = ステロイド
再発率、耳鼻科紹介率、チューブ挿入術の適応はステロイド投与群で少なめに見えますが、4つのグループで統計学的な有意差はありませんでした。
まとめ
今回の研究では、急性中耳炎の治療に抗ヒスタミン薬を追加してもメリットはなさそうな結果でした。
ステロイドにおいてもわずかに有益性があるかもしれませんが、統計学的な有意差はありませんし、他の研究結果を待つ必要があるでしょう。