急性中耳炎は小児においては風邪をひいた拍子に起こることがあります。2歳未満、痛みを伴う場合、両側性の場合などは抗菌薬の適応になります。
抗菌薬は中耳炎そのものを改善させる目的で処方されていますが、乳突蜂巣炎といった重篤な合併症の予防効果について検討された研究があります。今回はこちらの研究を紹介していこうと思います。
先にポイントだけ紹介します。
- 乳突蜂巣炎は1万人の小児のうち数名が生じる
- 36%は先行する中耳炎がある
- 抗菌薬で乳突蜂巣炎のリスクを半分に減らせるが、1人を予防するのに数千人の治療が必要
研究の方法
今回はイギリスの家庭医のデータベースを使用した後ろ向きコホート研究になります。
対象となったのは、
- 1990-2006年
- 生後3ヶ月〜15歳
などが該当しています。
治療について
治療は、
- 抗菌薬投与の有無
を評価して、のちにアウトカムを計測しています。
アウトカムについて
アウトカムに関しては、
- 中耳炎罹患後3ヶ月以内の乳突蜂巣炎
を見ています。
研究結果と考察
最終的に423の家庭医、262万人のデータを解析しています。
乳突蜂巣炎の発症数は854名でしたが、このうち先行する中耳炎があったのは35.7%のみでした。
抗菌薬の処方率と乳突蜂巣炎について
(↑こちらの図は紹介論文より拝借)
イギリスにおいては急性中耳炎に対して抗菌薬の処方割合は減っていいますが、2006年時点のデータでは乳突蜂巣炎の発症率は上昇していません。
乳突蜂巣炎のリスクについて
抗菌薬 | あり | なし |
乳突蜂巣炎発症 | 139 | 149 |
中耳炎の患者数 | 792,623 | 389,649 |
リスク | 1.8 / 1万人 | 3.8 / 1万人 |
患者全体としてはこのような結果でした。
- リスク比は0.46 (95%CI, 0.36 to 0.58)
- リスク差は0.02% (0.024% to 0.028%)
- NNTは4831
となっています。抗菌薬を使用することで乳突蜂巣炎のリスクを減らすことは可能なようですが、そもそも稀な現象のため、非常に多くの症例で使用しないと予防できなさそうですね。
年齢別にみたデータ
年齢別にリスク比、リスク差、NNTを見てみましょう。
抗菌薬 | あり | なし | RR | RD | NNT |
< 2y | 20 | 14 | 0.51 | 0.01% | 9971 |
191K | 68K | (.25, 1.01) | (-.02, .016) | ||
2-5y | 29 | 23 | 0.59 | 0.006% | 16052 |
339K | 155K | (.34, 1.0) | (-.01%, 0) | ||
6-10y | 49 | 59 | 0.51 | 0.02% | 3856 |
181K | 111K | (.34, .75) | (.01, .04) | ||
11-15y | 41 | 53 | 0.51 | 0.05% | 2135 |
81K | 54K | (.34, .78) | (.02, .07) |
年齢によって治療効果はそれほど変わらず、少なくとも数千人の治療が必要なようです。
感想と考察
リスク比とリスク差の両方を知ることが重要と言える研究でしたね。
リスク比は「比」で相対的なリスクを推定します。このため、確かに抗菌薬は乳突蜂巣炎のリスクを半分に減らせていますが、集団レベルで見ると0.05%以下と非常にわずかです。
イギリスでは抗菌薬の処方数は減っていますが、乳突蜂巣炎の発症率は変わっていないようで、現状の抗菌薬の適応基準を継続し、過剰処方しないようにというところでしょうか。
まとめ
抗菌薬の使用で乳突蜂巣炎のリスクは減りますが、稀な合併症であるため数千人投与してようやく1人予防できるレベルだったようです。
稀な合併症を恐れて過剰に処方しすぎないことも重要かと思いました。
中耳炎に対して抗菌薬処方は、
- (イギリスでは)適正処方を促しても乳突蜂巣炎の発症率は変わりなし
- 稀な合併症を怖れて過剰に抗菌薬を処方しないことも大事