医療の質

ガイドラインの改訂で中耳炎への抗菌薬の処方パターンは変わったのか?[アメリカ編]

合併症のない急性中耳炎に関する最新のガイドラインでは、管理方法として経過観察という選択肢を支持している。これまでのガイドラインでは、経過観察が採用されることは少なかったことが過去の研究により示されている。 

実際、ガイドラインの推奨を医師のプラクティスにどのくらい影響があるのでしょうか。

ユーキ先生
ユーキ先生
急性中耳炎への抗菌薬の処方、診療科や先生ごとにかなり異なる印象があります。

Dr.KID
Dr.KID
一緒にそのテーマの論文を読んでみましょう。

ポイント

  • 2,176,617件の合併症のない小児急性中耳炎エピソードを調査
  • 治療されたエピソードの割合は調査期間中約80%
  • 経過観察の最も強い予測因子は、臨床医の専門性と処方傾向
参考文献

Watchful Waiting for Acute Otitis Media Pediatrics e2021055613. 

   アメリカで2022年に報告された研究です。

ガイドラインの改訂で中耳炎への抗菌薬の処方パターンは変わったのか?[アメリカ編]

研究の背景/目的

最新のガイドラインでは、合併症のない急性中耳炎(AOM)に対する選択肢としてwatchful waitingを支持し続け、明確な診断基準を示している。 

本研究は、小児医療保険加入者を対象に、AOMに対する治療普及率とそれに関連する決定要因を明らかにするために実施された。 

研究の方法

本研究は、IBM Marketscan Commercial Claims Databases(2005年~2019年)を用いたレトロスペクティブコホート研究であった。対象は、1~12歳のAOM患者で、6か月以内に中耳炎関連の合併症なし、鼓膜切開チューブなし、AOMの指標診断前後に他の感染症なし、の患者である。 

毎月の抗生物質治療の処方率(AOM診断後3日以内の薬局での調剤と定義)を調べ、多変量ロジスティック回帰モデルを用いて様子見の決定因子を検討した。 

Dr.KID
Dr.KID
2013年のAAPのAOMのガイドライン改訂のことのようです。 

研究の結果

AOMエピソード2,176 617件のうち、77.8%が3日以内に治療された。いくつかの臨床的特徴はwatchful waitingの中程度の決定因子であったが、臨床医の抗生物質処方量と専門性は強い決定因子であった。 

抗生物質処方量の少ない医師(AOM エピソードの 80%以上を watchful waiting で管理)は,抗生物質処方量の多い医師(80%以上を治療)に比べて,指標となる AOM エピソードに経過観察を用いるオッズが 11.61(95% 信頼区間 10.66-12.64) 高く,また,抗生物質処方量の少ない医師(80%以上を治療)は,指標となる AOM エピソードに経過観察を用いるオッズが低かった. 

耳鼻咽喉科医は小児科医よりも watchful waiting を採用する傾向があったが(オッズ比 5.45,95% CI 5.21-5.70),その他の専門医はより一般的に抗生物質に移行した. 

結論

合併症のない非再発性AOMの管理におけるwatchful waitの採用は、研究期間を通じて限定的で停滞し、患者よりもむしろ臨床医の要因によって推進された。 

今後、臨床的な意思決定の指針として、処方の動機付けを評価し、一般的にwatchful waitingアプローチを好む臨床医と拒否する臨床医における患者の転帰を評価する必要がある。 

考察と感想

1~12歳の小児のレセプトデータを対象に分析が行われたようですね。 

中には中耳炎などで繰り返し受診されるケースもあるので、そういった小児は除外してあるようです(6か月以内の再発)。データを遡る期間のことをlookback periodなどということがあります。 

アウトカムに関しては 

  • 3日以内に抗菌薬の処方あり:watchful waitingでない 
  • 4日目以降に処方 or 処方なし:watchful waitingあり 

と分けたようです。 

Watchful waitingの採用率が高かったのは耳鼻科医で、次に小児科、内科、家庭医、救急医の順だったようです。日本ですと耳鼻科での処方が多いというデータもあるので、やや意外に思えましたが、国が違えばプラクティスも異なるのでしょう。 

Dr.KID
Dr.KID
個人的には、Methodに統計モデルの説明が一切なかったのはちょっと残念でした。 

まとめ

合併症のない小児急性中耳炎エピソードを調査したアメリカの研究です。小児の中耳炎で抗菌薬治療されたエピソードの割合は調査期間中約80%でした。経過観察(抗菌薬を使用しないwatchful waiting)の最も強い予測因子は、臨床医の専門性と以前の処方傾向のようです。

 

Dr. KIDの執筆した書籍・Note

絵本:めからはいりやすいウイルスのはなし

知っておきたいウイルスと体のこと:
目から入りやすいウイルス(アデノウイルス)が体に入ると何が起きるのでしょう。
ウイルスと、ウイルスとたたかう体の様子をやさしく解説。

感染症にかかるとどうなるのか、そしてどうやって治すことができるのか、
わかりやすいストーリーと絵で展開します。

絵本:はなからはいりやすいウイルスのはなし

こちらの絵本では、鼻かぜについて、わかりやすいストーリーと絵で展開します。

 

絵本:くちからはいりやすいウイルスのはなし

こちらの絵本では、胃腸炎について、自然経過やホームケアについて解説をした絵本です。

 

医学書:小児のかぜ薬のエビデンス

小児のかぜ薬のエビデンスについて、システマティックレビューとメタ解析の結果を中心に解説しています。
また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
1冊で2度美味しい本です:

小児の診療に関わる医療者に広く読んでいただければと思います。

医学書:小児の抗菌薬のエビデンス

こちらは、私が3年間かかわってきた小児の抗菌薬の適正使用を行なった研究から生まれた書籍です。

日本の小児において、現在の抗菌薬の使用状況の何が問題で、どのようなエビデンスを知れば、実際の診療に変化をもたらせるのかを、小児感染症のエキスパートの先生と一緒に議論しながら生まれた書籍です。

created by Rinker
¥3,850
(2024/11/20 01:07:57時点 Amazon調べ-詳細)

Dr.KID
Dr.KID
各章のはじめに4コマ漫画がありますよー!

noteもやっています

かぜ薬とホームケアのまとめnote

小児のかぜ薬とホームケアの科学的根拠

小児科外来でよくある質問に、科学的根拠を持って答えるnote

保護者からのよくある質問に科学的根拠で答える

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。