ガイドラインについて
2010年以降に発表された急性中耳炎の日米のガイドライン1, 3の特徴ですが、鼓膜所見を重要視している点が印象的です。
少し背景を説明しますと、2000年代中頃まで、急性中耳炎における抗菌薬の有効性を検証した研究で、有効性に対して否定的なエビデンスが複数ありました。このため、2004年にコクランデータベースから報告された2システマティックレビューとメタ解析では、「急性中耳炎で抗菌薬を使用するメリットはわずか」と記載されています。
この時期に、抗菌薬の有効性を証明できなかった原因として、急性中耳炎の誤分類(misclassification)によるバイアスが考えられます。この背景に、異なる医療システムが挙げられます。例えば、日本と異なる医療システムを持つアメリカでは、耳鼻科への医療アクセスはよくなく、急性中耳炎の診断・治療は家庭医や小児科医が行なっているようです。このため、急性中耳炎の診断や重症度が曖昧なまま研究が行われ、治療効果が証明しづらい状況だったのかもしれません。
急性中耳炎の診断の重要性
2011年に急性中耳炎の診断において厳格な鼓膜所見を取り入れて行われたRCTが複数報告された影響が大きいと考えられています。例えば、アメリカから2011年に報告されたRCTですが4、耳鏡の研修を受けた医師のみが参加し、急性中耳炎の診断を確実にした後に抗菌薬の有効性を確認しています。
結果ですが、抗菌薬(アモキシシリン・クラブラン酸)を使用したグループの方が中耳炎の症状が持続する割合は一貫して低くなっており、治療効果が示唆される結果です。
同年にフィンランドから報告されたRCTもあります [5]。この研究でも急性中耳炎の診断に厳密なプロトコールを採用しています。治療はアモキシシリン・クラブラン酸を使用し、治療失敗率(症状や鼓膜所見の悪化など)や追加治療を要した割合などを比較しています。
こちらの結果でも、抗菌薬を使用したグループの方が治療失敗率は低く、追加治療が必要となる症例の割合も低くすんでいます。
急性中耳炎の治療をする場合、抗菌薬をすぐに始める場合も、投与せずに様子を見る場合も、診断と重症度の確認は重要です。小児では耳垢で鼓膜が見えないケースがあるため、耳垢除去をするスキルは身につけておいた方が良いかもしれないですね。
参考文献
- Lieberthal AS, Carroll AE, Chonmaitree T, et al. The diagnosis and management of acute otitis media. Pediatrics. 2013;131(3):e964-99. doi:10.1542/peds.2012-3488
- Glasziou PP, Del Mar CB, Sanders SL, Hayem M. Antibiotics for acute otitis media in children. Cochrane database Syst Rev. 2004;(1):CD000219. doi:10.1002/14651858.CD000219.pub2
- 日本耳科学会など. 小児急性中耳炎診療ガイドライン [2018年度版].; 2018
- Hoberman A, Paradise JL, Rockette HE, et al. Treatment of Acute Otitis Media in Children under 2 Years of Age. N Engl J Med. 2011;364(2):105-115. doi:10.1056/NEJMoa0912254
- Tähtinen PA, Laine MK, Huovinen P, Jalava J, Ruuskanen O, Ruohola A. A placebo-controlled trial of antimicrobial treatment for acute otitis media. N Engl J Med. 2011;364(2):116-126. doi:10.1056/NEJMoa1007174