小児のインフルエンザの迅速検査は、発熱してから何時間が良いか知りたい方へ
小児科外来をしていると、発熱後の早すぎる受診がそれなりにあります。
インフルエンザのシーズンに急に発熱して、ご心配なのは分かりますが、インフルエンザの検査は適した時間があります。
前回、インフルエンザ迅速検査の感度・特異度について記載された論文の解説をしてきました。
恥ずかしながら、この論文を読む前まで『インフルエンザ検査は発熱12時間以降』と考えていました。
しかし、この論文を読んで、個人的には24時間以降に検査をしたほうがよいと考え直しました。
発熱後の時間で分けた感度・特異度
こちらが論文の研究結果になります。
感度のところに注目していただくと、
- 〜12時間までは35%
- 12〜24時間は66%
- 24〜48時間は92%
と、最初の2日間は感度が時間とともに上がっているのがわかると思います。
感度はなぜ時間とともに変化するのか
まず最初に、感度についてですが、感度とは『真に疾患のある人が、検査をして陽性と判定される割合』のことをいいます。
例えば、感度92%とは、インフルエンザにかかっている人を100人集めて検査をすると、
- 92人は検査が陽性となる
- 8人は検査が陰性となる
ことをいいます。
発症後6時間の感度のイメージ図
赤い山はインフルエンザ患者、Y軸は患者数、X軸は時間と考えてください。
発症後6時間の感度を35%とすると、感度は上の図の青い垂線ようになります。
線より右側がインフルエンザがあり、検査陽性と出てくれたラッキーな方々です。
逆に、垂直線の左側は、検査は陰性となりましたが、実はインフルエンザに罹っていた人々をいいます(これを偽陰性といいます)。
この「偽陰性」の割合が65%もいることを言います。
いかに、発症 6時間での検査が不正確か分かるでしょう。
時間とともに感度が変化する理由
おそらく「時間=ウイルス量」を反映しているのだと思います。
例えば、発症3時間より24時間後のほうが、咽頭にいるウイルス量が多いため、より検査陽性になりやすくなったと言えます。
このため、先ほどの図でいうと、時間が経過すると、ウイルス量はどんどん増えて、感度が良くなるため、垂直のラインが左にシフトしていきます。
そして、あるところでピークを迎え、また右側に戻っていきます。
このため、48時間以降は、感度58%となっています。
おそらく、体内の免疫がインフルエンザを攻撃してウイルス量が減るため、徐々に検査で検出されにくくなるのでしょう。
データを正しく読み解く
こちらの表を数字のまま、階段状に見てしまうと
- 発症12時間までは35%で
- 発症12時間以降に66%に上昇し
- 発症24時間以降に92%に上昇する
と階段状のイメージを持つ方がいるかもしれません。
データを階段状ではなく、曲線状に動きます
表で数字にされると、どうしてもデータを階段状に考えてしまいがちですが、実は、データは常に滑らかな曲線を描いています。
青のラインは確率をLogitモデルで示した場合です。
以下の仮定を念頭にグラフを作成しています;
- 6時間で感度35%、18時間で感度66%、36時間で感度92%
- Logitと時間は線形関係
- 感度は48時間でピークになる
*簡略化のため、やや無理な前提があるのは目を瞑ってください。
階段状にデータを解釈してしまうデメリット
データを階段状に解釈するデメリットとして、とあるポイントでは過小評価をし、とあるポイントでは過大評価をすることになります。
例えば、赤矢印に注目して下さい。階段状にデータを解釈すると;
- 発症後13時間だから感度は66%(しかし曲線では50%くらい)
- 発症後25時間だから感度は92%(しかし曲線では80%くらい)
と判断するのは、おそらく過大評価でしょう。
実際には曲線のほうが正しい感度です。
このように、データを階段状に文字通り読み取ってしまうと、感度を大きめに判断してしまっています。
逆に青矢印に注目してください。
- 発症後23時間だから感度は66%(しかし曲線では75%くらい)
と過小評価をしてしまいます。
このように、数値をそのまま階段状に当てはめてしまうと、過大評価や過小評価を意図せず行ってしまうことがあるので、注意する必要があります。
結局、インフルエンザの迅速検査はいつがいいのか
これは検査の感度に対する期待といえます。
一般的な臨床医の感覚からすると『感度80〜90%くらいは欲しい』と感じる方が多いのではないでしょうか。
そうなると、発熱後24時間以内の検査はいささか早めと思います。
しかも、24時間過ぎても80%弱ですので、陰性とでても偽陰性(本当は陽性だが、検査のタイミングが早いため陰性であった)リスクはそれなりにあると思います。
次回は、感度・特異度や、疾患の罹患率の変化から陽性的中率(PPV)・陰性的中率(NPV)がどのように動くのか説明してみようと思います。
◉ 感染予防は手指消毒が基本です。アルコール消毒でしっかりと殺菌して感染を予防しましょう。