日本と同じように、タイでもアレルギー性鼻炎はよくある疾患の1つのようです。
罹患率は10%〜45%程度と推定されているようで、かなりの方がこの疾患にかかっているのが分かります。
鼻洗いはアレルギー性鼻炎でも使用されることがあります。
鼻を洗うことで、鼻に付着したアレルゲンを流すことができますし、さらに鼻汁を綺麗に流すことで鼻の開通もよくなり、QOL(生活の質)も改善すると考えられています。
鼻洗いも、どのような溶液をつかい、どのように洗うと良いか、その方法論で意見が別れています。
その1つが、鼻洗いで使用する生理食塩の濃度です。
一般的に、生理食塩水を鼻洗いなどで使用する際には、等張液といって0.9%の濃度に調整します。しかし、近年は3%程度の高張液を使用することもあり、どの濃度の生理食塩水を使用するかは、人によっても異なります。
高張食塩水の欠点として、濃度が高くなりすぎた結果、鼻粘膜を刺激してしまったり、不快感を感じる方もいます。
このため、今回の研究は、異なる生理食塩水の濃度で、アレルギー性鼻炎の症状の推移が異なるかどうかを確認しています。
研究の方法
今回の研究は、2010年にタイで行われたランダム化比較試験で、
- アレルギー性鼻炎の診断あり
- 6〜15歳
- 鼻の症状のスコアが4点以上:Total nasal symptom score
を対象に研究がおこなわれました。
治療について
治療は2グループに分け、
- 等張食塩水
(煮沸した240mlのお湯に食塩を1.6g入れて冷ます) - 高張食塩水
(煮沸した240mlのお湯に食塩を3g,重曹を1g入れて冷ます)
のいずれかをランダムに割り当てています。
20mlのシリンジを使用して、1回あたり240mlの鼻洗いを1日2回行ったようです。
アウトカムについて
アウトカムは、
- SCT: Saccharineclearancetime
- TNS
などを計測しています。
SCTは、鼻のクリアランスの指標です。
TNSは、鼻の症状を数値化してスコアとして報告したものです。
研究結果と考察
最終的に高張食塩水を使用したグループは40人、等張食塩水を使用したグループは41人でした。
患者背景の特徴として、
- 平均10歳
- 男児が60%
- 鼻炎の期間は3〜4年
でした。
10分後の鼻のクリアランスと症状について
鼻洗いした10分後の鼻のクリアランスと症状を確認しています。
クリアランスは以下のように推移したようです:
食塩水 |
高張 |
等張 |
前 |
279.5 |
259.4 |
後 |
159.4 |
195.3 |
差 |
120.1 |
64.1 |
高張食塩水のほうが、鼻のクリアランスの改善に関しては即効性がありそうでした。
鼻の症状は以下のように推移しています:
食塩水 |
高張 |
等張 |
前 |
7.3 |
6.3 |
後 |
1.3 |
1.9 |
差 |
6.1 |
4.4 |
自覚症状の改善も、高張食塩水のほうが改善していました。
4週間後の症状について
4週間後の鼻の症状やQOLを比較してみましょう:
食塩水 |
高張 |
等張 |
TNSS |
1.9 |
2.4 |
QOL |
43.0 |
47.6 |
満足度 |
5.8 |
6.1 |
薬の使用 |
56% |
66.7% |
かぜの罹患 |
16% |
28.6% |
長期的なスパンで見ると、TNSSやQOLといった症状に関連したスコアはどちらのグループもあまり変わらない印象でした。
薬の使用頻度は高張食塩水グループのほうが低く、かぜの罹患率も低い傾向にありましたが、統計学的な有意差は認めませんでした
考察と感想
今回のタイの小児のアレルギー性鼻炎の研究では、鼻洗いは高張食塩水のほうが、短期的には鼻のクリアランスや症状をより改善させる傾向にありました。一方で、4週間という長期的な結果をみると、等張食塩水と変わらなそうな印象でした。
さらに、高張食塩水のほうが、薬の使用率はかぜの罹患率が低い傾向にありましたが、これらは統計学的な有意差には達しておらす、不正確な推定となります。
私はアレルギー性鼻炎ないのですが、慢性副鼻腔炎に対して日々、鼻洗いを続けています。
たまに濃度を間違えて少し濃く作ってしまうことがありますが、多少は塩分の濃度が高くても、それほど苦になることはありません。
一方で、濃度を低くしてしまうと、鼻がツーンとするため、低くならないように注意しています。
この研究は濃度をあげて重曹を混ぜている点も注意したほうがよさそうです。
実は食塩の濃度をあげたことが良いのではなく、重曹がよかった可能性ものこされています。このあたりは追加検証が必要そうですね。
まとめ
今回の研究では、アレルギー性鼻炎の小児に使用する鼻洗いの溶液の食塩濃度を上げて、重曹を追加したところ、症状の改善は短期的には改善している印象でした。
この方法を続ける長期的なメリット(かぜの罹患や薬の使用)もありそうですが、追加検証は必要でしょう。