小児におけるインフルエンザの臨床診断の正確性が気になっている方へ
今回はこちらの論文をピックアップしました。
インフルエンザの臨床診断の正確性について検討した論文です;
冬場になると、どこの病院もインフルエンザの患者さんで外来はパンク状態になります。
待ち時間が長くなる理由として、迅速検査にあります。
迅速検査は鼻に細い綿棒を入れるだけの検査なのですが、小児の場合、痛みで子供が暴れるため、抑える人が必要になります。
また、忙しい外来だと、綿棒を薬液に浸して、検査結果をみる作業も必要になります。
一人一人の時間はそれほどかからないのですが、患者さんの数が増えると、これが積み重なり、診察時間の遅延や、患者さんの満足度低下、医療者の疲弊に繋がっているでしょう。
検査なしでインフルエンザの診断はできないか?
毎年冬になると 「インフルエンザの診断は臨床診断でできないだろうか?」 と疑問を持ちます。
臨床医であれば、誰もが一度は抱く疑問でしょう。
この論文は「医師のインフルエンザの臨床診断は正確か?」という疑問に1つの答えを提示しています。
研究の背景
小児のインフルエンザは毎年、冬に非常に流行します。
最近では、抗インフルエンザ薬が登場してきました。
しかし、薬を処方するには正確に診断をして、インフルエンザか否かを区別する必要があります。
医師はインフルエンザの臨床診断をどう下しているか
インフルエンザの臨床診断をする場合、医師は;
- 患者さんの症状
- 診察
- 既往歴・ワクチン歴
- 地域での流行
を参考にして、最終的な判断をします。
迅速検査を行わない場合の、医師の臨床診断の正確性ははっきしていないため、今回の研究が行われました。
研究の方法
今回の研究は
- 前向きのコホート研究
- 2000年〜2001年
- 0〜13歳のフィンランドに在住の気道感染の小児を対象
に行われました。
研究の手順
研究の手順は極めてシンプルで;
1. 医師が診察をして、インフルエンザか否か判断する(Yes/No) 2. ウイルス培養でインフルエンザの確定診断をする(Gold standard)
を行い、医師の臨床診断の感度・特異度・陽性的中率・陰性的中率を確かめています。
研究の結果
こちらが研究結果になります。
全年齢を対象にした結果
小児全体はAll ageの行です。 もう少しわかりやすく2×2 tableにすると;
となります。
ここから感度・特異度を計算すると、
という結果になります。
年齢別にみた場合
年齢別にみた場合、感度・特異度・陽性的中率・陰性的中率は
となりました。
特に3歳以下での感度が低いのが目立ちます。
インフルエンザの流行期別にみた場合
インフルエンザの流行時期によって層別化した場合、上の表のようになります。
研究の考察
非常に低い感度と陽性的中率について
臨床診断の感度と陽性的中率が非常に低い結果です。
これは、臨床診断のみでインフルエンザ感染を判断すると、多くの見逃し症例が起こる可能性が高いことを示唆しています。
陽性的中率に関しては、医師の判断でインフルエンザ感染としても、じつは感染していなかった可能性(偽陽性)がそれなりに高いことを示しています。
特に、3歳以下での感度と陽性的中率の低さが際立っています。
おそらく、この年齢層は典型的な症状がでないことが多々あるためでしょう。
高い特異度と陰性的中率について
一方で、特異度と陰性的中率は高い値です。
インフルエンザでないと判断された場合、本当にインフルエンザ感染しておらず、熱の原因が別にある可能性が高いといえます。
私的な考察
臨床診断の正確性は私が思ったより低かったです。
フィンランドでの結果ですので、そのまま日本に当てはまらない可能性はありうると思います。
理由として、日本では日常的に迅速検査をしており、熟練の医師は毎日のようにフィードバックを受けています。
フィランドの医師と日本の医師で、見分ける能力が大きく異なる可能性はあると思います。
とはいえ、インフルエンザの臨床診断の正確性は悲しいほど低いです。
(迅速検査や薬の適応の妥当性は別にして)小児の場合、インフルエンザは臨床診断で十分正確に行える、とは言い難いでしょう。
日本でも同様の研究がないか、気になるところです。
◉ インフルエンザ流行期はマスクと手洗いを徹底しましょう。