アメリカでの研究になりますが、前回、生後2〜3時間以内に行っていた沐浴を、12時間以降に遅らせることで、母乳育児の促進につながるのかもしれない、という論文をご紹介しました。
アメリカ小児科学会は母乳促進に関して明確な目標を立てており、
- 2020年までに
- 母乳栄養を受けたことのある乳児の割合が81.9%
を達成しようと考えているようです(the Healthy People 2020)。
かつて、アメリカでは出産直後に沐浴させ、付着した血液や羊水、胎便などを落としてしまおうと考えていたようですが、近年は胎児の体温が安定するまではドライケア(汚れを拭くだけ)でも良いのではないかと変わってきているようです。
新生児の最初の入浴をいつにすべきかは、団体によって異なるようですが、例えばAssociation of Women’s Health, Obsteric and Neonetal Sursesは、少なくとも出産後2ー4時間は経過して、体温やバイタルサイン(呼吸、心拍数、血圧など)が落ち着いてからとしています。
また、WHO(世界保健機関)は、新生児の最初の沐浴は、可能であれば出産24時間以降にするよう推奨しています。もし無理な場合でも、少なくとも6時間以降にするように追加でコメントもしています。
最初の入浴を出産後6〜24時間以降にするのを推奨する理由ですが、新生児は生後間も無くは体温、心拍、呼吸などが不安定であり、低体温や低血糖のリスクが高いからです。低体温や低血糖は新生児にとっては呼吸や循環に影響を与える大きな問題ですから、当然といえば当然です。
2013年以降、最初の沐浴を遅らせることで、母乳を促進できるかもしれないという研究結果が複数出ていますが、今回は相反する内容のものもありましたので、ご紹介させていただこうと思います。
研究の方法
今回の研究は、アメリカのカリフォルニア州の病院で行われ、対象となったのは
- 37週以降の新生児
- NICUに入室する必要はない
- 母はHIV, B型 or C型肝炎に罹患していない
などを参考にしています。
最初の沐浴のタイミングの変更について
最初の沐浴のタイミングの変更ですが、
- 少なくとも出生後9時間以降
としたようです。
最初は過去の研究結果をもとに、12時間以降に変更しようとしたらしいですが、アメリカの場合、出産後48時間以内の退院が基本で、12時間以降にすると、保護者から退院日の沐浴を依頼されるケースが増え、退院前に仕事量が増えるから避けたいとナースから申し出が多かったため、9時間以降にしたようです。
この方針の導入前後で、母乳導入の成功率を比較しています。
研究結果と考察
最終的に1959人の新生児が解析対象となっています。
- 導入前:4ヶ月で616人
- 導入後:8ヶ月で1334人
を観察しています。
最初の沐浴のタイミングの変化
最初の沐浴のタイミングですが、新しい方針を導入前後で以下のように変化しています。
出生から沐浴までの時間 | (SD) | |
導入前 | 6.88 | (6.81) |
導入後 | 13.17 | (8.23) |
この方針の変化により、「沐浴しないで欲しい」というリクエストが増加しています:
沐浴拒否 | (%) | |
導入前 | 1 | (0.16%) |
導入後 | 15 | (1.1%) |
完全母乳栄養について
入院期間中の完全母乳栄養の達成率を比較して、著者らは以下のようなテーブルを作成し、入浴を遅らせても完全母乳栄養の導入の成功率は変わらなかったと言っています。
< 9時間 | > 9時間 | |
導入前 | 310/466 (66.5%) |
94/150 (62.7%) |
導入後 | 211/314 (61.3%) |
667/1009 (66.1%) |
個人的に、このテーブル(と比較の仕方)はちょっと微妙だと思いました。
例えば、生後9時間までに導入できなかった人は、生後9時間以降もトライしているはずなのですが、なぜか9時間以降のデータには入っていません。逆もそうでして、9時間以降に記録されている方は、その前も母乳栄養をトライしているのではないでしょうか。
本来、このタイプの研究であれば、入院期間中(48時間のフォローで)に何人が完全母乳栄養の導入に成功したか、母乳を与えることが1度でもできたか、そうではなかったかを示した方が良かったように思います。(過去の研究のように)
まとめ
こちらの研究では、最初の沐浴のタイミングを遅らせても、母乳栄養の達成率は変化がありませんでした。
しかし、比較の仕方に少し問題がありそうな印象でした。
こちらの本の索引からたどり着いた論文です。この本は、オーディブルで朝晩の移動時間に聴いています。経済学者の書いた育児エビデンスですので、やや小児科的な視点からズレている箇所が多々ありますが(アメリカでも少し問題になっているよう)、文献を調べる入り口として使用するには悪くないと思いました。