今回は次サリチル酸ビスマス(bismuth subsalicylate)が小児の下痢に有効かを検証した研究をご紹介します。
先進国ですと下痢で死亡する可能性はきわめて低いですが、適切な医療の提供が困難な途上国において、下痢は小児の死亡の原因として2番目に多いと推定されています(2001年時点)。このため、経口補水療法に加えて、下痢の症状を緩和させる薬について、様々な研究がされています。
次サリチル酸ビスマス(bismuth subsalicylate)もそのうちの1つでして、今回の研究では、この薬が乳幼児の下痢に有効かを検討しています。
研究の方法
今回の研究はバングラシュッシュのMatlabにおいて、
- 生後4〜36ヶ月
- 急性下痢症と診断
- 発症後24時間以内
を対象に研究がされています。
治療については、標準的な経口補水療法に加えて、
- 次サリチル酸ビスマス(bismuth subsalicylate
- プラセボ
のいずれかをランダムに割り付けています。
アウトカムは、
- 便・尿の排泄量
- 経口補水量
- 体重変化
- 下痢の期間
- 14日以上持続する下痢
などを指標にしています。
研究の結果と考察
最終的に451人が参加し、
- ビスムスを226人
- プラセボを225人
にランダムに投与されました。
急性下痢症の原因ですが、ロタウイルスが56%、毒素原性大腸菌が31%でした。
下痢の持続について
下痢が14日以上持続した人の割合は、
- ビスムス群は8%
- プラセボ群は11%
と、ややプラセボ群が高かったですが、統計学的な有意差はありませんでした。
体重増加について
通常、下痢を起こすと体重は減りますが、その後の回復(体重増加率)は、
- ビスムス群は2.3%
- プラセボ群は0.5%
でした。
そのほかのアウトカムについて
その他のアウトカムですが、以下の通りとなります。
ビスムス | プラセボ | |
下痢の期間 | 36h | 42h |
下痢・尿の量 (g/kg) |
386 | 438 |
経口補水量 (ml/kg) |
291 | 325 |
ビスムスを使用したグループのほうが、やや下痢の期間が短く、その量も少ない印象でした。一方で、経口補水の摂取量は少ない傾向にあります。
考察と感想
全体として、次サリチル酸ビスマス(bismuth subsalicylate)が下痢の期間を短縮させたり、症状を緩和する効果はわずかな印象でした。一方で、今回の研究では重大な副作用もありませんでした。
データをみるとたしかにわずかな効果はありそうですし、一部は統計学的な有意差を認めてはいるのですが、これが臨床的にどの程度重要かは、私はやや懐疑的です。
気になった点として、プラセボでなくプロバイオティクスと比較した時に有効性がどうかという点ですね。これは他の研究でもそうなのですが、胃腸炎関連の研究はプラセボとの比較ばかりで、プロバイオティクスなど有効性が証明されている薬との比較dataが不足している印象です。
まとめ
次サリチル酸ビスマス(bismuth subsalicylate)が下痢の期間を短縮させたり、症状を緩和する効果はわずかな印象でした。
一方で、今回の研究では重大な副作用もありませんでした。