次サリチル酸ビスマスはアメリカでもよく使用されている薬ですが、
- 科学的根拠は主に成人でのデータ
- 小児では慢性の下痢での研究がメイン
のため、小児の一般的な胃腸炎に対するエビデンスは乏しいようです。
そこで、1991年にこちらの研究が発表されたようです。参考文献は以下の通りです。
研究の方法
今回の研究は、
- 生後4〜36ヶ月
- 72時間以内の下痢
- 入院が必要
- 慢性疾患がない
方を対象に、ランダム化比較試験が行われました。
治療は、
- 次サリチル酸ビスマス
- プラセボ
のいずれかをランダムに5日間投与されています。
アウトカムは、
- 便の量(g/kg)
- 便の形状
- 排便回数
- 臨床スコア
を比較しています。
研究結果と考察
最終的に、
- 次サリチル酸ビスマスは58人
- プラセボは65人
が割り当てられていました。患者の特徴として、
- 男児が6割
- 月齢は平均10ヶ月
- 体重は8kg
- 治療開始前の下痢の期間は40時間ほど
- ロタウイルス胃腸炎が4割
でした。
主要なアウトカムについて
まずは主要なアウトカムをみていきましょう。
ビスマス | プラセボ | |
水様便 | 73.4h | 107.5h |
軟便 | 130.4h | 170h |
入院日数 | 6.93d | 8.48d |
次サリチル酸ビスマスを使用したグループのほうが、
- 水様便・軟便の期間が短い
- 入院日数が短くなる
傾向にありました。
日別にみたアウトカム:便の形状
ビスマス | プラセボ | |
1日目 | 2.5 | 2.69 |
2日目 | 2.07 | 2.47 |
3日目 | 1.86 | 2.28 |
4日目 | 1.79 | 2.28 |
5日目 | 1.52 | 2.19 |
6日目 | 1.38 | 1.85 |
7日目 | 1.38 | 1.65 |
8日目 | 1.24 | 1.47 |
便の形状を点数化していますが(1=固形;2=軟便;3=水様)、ビスムスのほうが早く改善している印象があります。
日別にみたアウトカム:排便回数
ビスマス | プラセボ | |
1日目 | 6.26 | 7.51 |
2日目 | 6.07 | 7.20 |
3日目 | 5.31 | 7.80 |
4日目 | 4.98 | 7.55 |
5日目 | 4.28 | 6.14 |
6日目 | 2.98 | 4.15 |
7日目 | 3.27 | 3.66 |
8日目 | 2.67 | 3.00 |
排便の回数はビスマスを使用したグループのほうが少ない傾向にありました。
日別にみたアウトカム:クリニカルスコア
ビスマス | プラセボ | |
1日目 | 29.1 | 31.4 |
2日目 | 20.3 | 25.4 |
3日目 | 18.4 | 23.9 |
4日目 | 15.9 | 22.6 |
5日目 | 15.3 | 20.6 |
6日目 | 14.0 | 18.7 |
7日目 | 13.8 | 14.9 |
8日目 | 10.9 | 14.3 |
こちらの点数は、活気やバイタルサイン、診察所見などからつけられた点数ですが、低いほど状態がよいことを示唆しています。
ビスマスを使用したグループのほうが、より早く改善しているのが伺えますね。
考察と感想
次サリチル酸ビスマスを使用したグループのほうが、下痢の回数は少なく、下痢の期間が短縮し、入院日数も短い傾向にありました。
この研究が行われた時期は、まだワクチンがないため、ロタウイルスが胃腸炎の原因として多数を占めていました。
このため、この結果が現代でも当てはめられるのかは少し慎重になってしまいます。
あとはプロバイオティクスと比較するとどうかは気になりますね。
ほとんどの小児科医は胃腸炎の治療はプロバイオティクスをまず使用するのではないでしょうか。このため、プラセボよりプロバイオティクスと比較するほうが、より臨床に近い研究と感じました。
まとめ
今回の研究は、次サリチル酸ビスマスを使用したグループのほうが、下痢の回数は少なく、下痢の期間が短縮し、入院日数も短い傾向にありました。
プロバイオティクスと比較するとどうなるかは気になりますね。