興味深い論文を見つけたので、ご紹介させていただければと思います。
「Choosing wisely」という考え方がアメリカを始め、世界各国に広がっていますが、手短にいうと、不要な検査や治療を最小限にして、限られた医療資源を最大活用できるようにしていきましょう、という考え方です。
例えば、アメリカ小児科学会は、ワクチン接種が適切に行われ、合併症のない小児の肺炎に対して、ペニシリンより広域な抗菌薬を使用しないように推奨しています。
とはいえ、これまで小児の肺炎に対して第3世代セフェムを使用していた医師からすると、
- 広域抗菌薬のほうが早く治るでしょ?
- ペニシリンを使用すると量が多いから、かえって医療コスト上がるのでは?
などと反発がアメリカでも出ているようです。
そこで、今回の研究が行われました。
後方視的な研究ですが、ペニシリンと3rd セフェムで臨床的なアウトカムに差があるのかを検討しています。
研究の方法
今回の研究では、Pediatric Health Information System (PHIS)というアメリカの43の小児病院のデータベースを使用して行われました。
対象となったのは、
- 6ヶ月〜18歳
- 2005〜2011に入院
- 基礎疾患なし
- 30日以内の入院歴なし
などが基準になっています。
治療は、
- 入院期間中にペニシリンのみ or 3rd セフェムのみ
を投与された患者となっています。
アウトカムは、
- 入院日数
- 医療コスト
- 再入院日数
などです。
観察研究ですので、
- 回帰分析
- 傾向スコアマッチング
などで交絡因子を対処しながら解析しています。
研究結果と考察
最終的に15564人の小児のデータが研究の対象となり、
- 3rdセフェム:89.7%
- ペニシリン:10.3%
の内訳でした。
アウトカムの比較
アウトカムを比較した結果をみてみましょう。
3rd C | Pen | 差/オッズ比 | |
入院日数 | 3 (3-4) |
3 (3-4) |
0.12 (-0.02-0.26) |
コスト | 3992 (2985-5713) |
4375 (3390-5805) |
-14.4 (-177.1 to 148.3) |
ICU入室 | 1.1% | 0.8% | 0.85 (0.27-2.73) |
再入院(14d) | 2.3% | 2.4% | 0.85 (0.45-1.63) |
結果を要約すると、3rdセフェムを使用した場合、
- 入院日数はほぼ同じ
- コストは若干低くなるかも
- ICU入室率はほぼ同じ
- 再入院率もほぼ同じ
とほとんどメリットがないようなデータとなっています。
PS matchingをしても、似たような結果でした。
考察と感想
今回の研究では、ペニシリンのような狭域抗菌薬を使用しても、入院日数、ICU入室率、再入院率は3rdセフェムを使用した場合とほぼ同等で、コストもわずかに上がるくらいでした。
コストに関しては、広域抗菌薬を使用して耐性菌が出現した場合など、将来的にさらにコスト増になる可能性があるため、この結果だけをみて3rdセフェムのような広域抗菌薬を使用するのを正当化するのは難しいでしょう。
アメリカにはPHISのような小児病院が協力してつくった強力なデータベースがあります。最近はKaiser Permanentなども臨床疫学のデータを利用して、論文化を積極的にしており、現在の日本の小児の疫学研究は周回遅れどころではないのが現状です。
まとめ
今回の研究では、ペニシリンのような狭域抗菌薬を使用しても、入院日数、ICU入室率、再入院率は3rdセフェムを使用した場合とほぼ同等で、コストもわずかに上がるくらいでした。
他国でも類似の結果がないか、探してみようと思います。