Cancer Epidemiology (がんの疫学)

Cancer Epidemiology (がんの疫学)② | 危険因子について [2019年度版]

前回はNCDs (non-communucable disease)を始めとした統計・疫学について簡単に説明してきました。

Cancer Epidemiology (がんの疫学)① | 世界のトレンドを知る [2019年度版]悪性腫瘍などを始めとした慢性疾患は、non-communucable disease (NCD)と呼ばれることがあります。 WHOの定...

今回は、がんにまつわる危険因子について簡単に解説していこうと思います。例えば、NCDsの危険因子といえば、

  1.  食事・肥満
  2.  喫煙
  3.  環境汚染
  4.  アルコール
  5.  運動不足

などが主としてあげられますが、これががんにおいても同様です。

がんの主要な危険因子について

先進国 vs. 途上国でみた場合

主要な危険因子ですが、先進国と途上国では寄与する割合が異なります。

  先進国 途上国
タバコ 16% 10%
感染症 8% 26%
食事・肥満 30% 20%
職業 5% N/A
環境 2% N/A
その他 39% 44%

(*Cancer Atlas, 2006を参照)

先進国と途上国では、危険因子の割合が異なります。例えば、先進国ではタバコや食事など、購入できるものの割合が高くなっています。

一方で、途上国は感染症が危険因子の割合として最も多くなっています。

1980年 vs.2010年代

1980年代のDoll & Peroらの報告 (JNCI, 1981)と、2010年代のHarvard Center for Cancer Preventionからの報告を比較してみましょう。

  Dollら Harvard
タバコ 30% 30%
食事
肥満
35% 30%
感染 10% 5%
生殖器/ホルモン 7%  
職業 4%  
アルコール 3%  
環境汚染 2%  
食品添加物 < 1%  
医薬品 1%  
産業消費物 < 1%  
遺伝   5-10%
運動不足   5%

タバコや食事、肥満といった因子はいずれの時代も大きな割合を占めているのが分かります。一方で、近年は遺伝疫学などの発展もあり、遺伝子による影響が分かってきたことが多いのか、割合が増えています。

タバコの喫煙について

タバコの喫煙は、がんの原因として最もメジャーな危険因子です。
喫煙と関連していると言われるがんの組織は、以下の通りです

鼻腔 口腔内
咽頭・喉頭 食道
肝臓 膵臓 直腸
卵巣 子宮頸部 腎臓
腎臓 血液  

2005年のDoll & Petoらの報告によると、高所得国において、30%のがんはタバコと関連していると考えられています。

IARC (国際がん研究機関はタバコをGroup 1の発がん性物質と認定しています。(発がん物質のグループ分けについては、後日、詳しく解説します)

感染症について

ウイルス感染がメインですが、感染症もがんの原因になることがあります。以下の9つのウイルスは、発がんとの関与が示唆されており、Group 1の発がん物質に分類されています(Parkin et al. 2006)。

病原体 がん AF*
EBV 咽頭癌 97.9%
  ホジキンリンパ腫 (HL) 45.9%
  非ホジキンリンパ腫 (NHL) 2.2%
HPV 子宮頸がん 55.7%
  口腔・咽頭癌 4.4%
HBV
HCV
肝臓癌 83.9%
HIV NHL 12%
  Kaposi肉腫  
HTLV-1 NHL 1.1%
ピロリ菌 胃癌 63.6%
Schistosoma Haematobium 膀胱癌 3%
Opisthochis Viverrini 肝臓癌 0.4%

(AF = attributable fraction)

EBV, HBV/HCV, HPV, ピロリ菌あたりは有名ですが、AFの値は高いですね。

食と肥満について

次は食と肥満についてみていきましょう。

食について

食で有名な発がん物質としては以下のものがあります:

  •  アフラトキシン(肝臓癌):Group 1
  •  加工肉:Group 1
  •  赤身肉:Group 2A

加工肉や赤身肉は、2019年に発表されたメタ解析結果が波紋を呼びましたが、Group 1/2Aという考え方には影響しないと考える専門家が多いようですね。

アルコールについて

アルコールもGroup 1の発がん物質に認定されています。がんの部位とAFを並べると以下の通りです(Baan et al, 2007):

部位 AF
口腔・咽頭 48%
乳房 18%
肝臓 80%
消化器 39%

かつてイギリスを始めとしたEUはアルコールが肝臓癌の主要な危険因子と考えていたようですが、現在は7%くらいしか関与していないとも考えられているようです。

職業や環境について

職業による暴露や環境からの暴露で発がんすることがあります。有名どころとしては以下でしょうか:

暴露 対象 がん
妊娠なし カトリックのシスター 乳癌
Coal ash 煙突掃除 皮膚癌(陰嚢)
放射線 白血病など

放射線による大量被曝に関してですが、第二次世界大戦の広島と長崎が身近なトピックでしょう。

例えば、広島には1945年8月6日にウラニウムの核爆弾が投下されましたが、14万人が死亡しました。長崎でも投下されましたが、こちらは7万4000人が死亡したと推定されています。

被曝による発がん性は、がんのタイプによっても異なるようです。

終わりに

今回は、がんにおける主要な危険因子について簡単に解説してきました。

次回は、疫学的な視点から見た、がんに関わる遺伝子やモデルについて少し解説できればと思います。

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。