Cancer Epidemiology (がんの疫学)

Cancer Epidemiology (がんの疫学)(20)| ピロリ菌・HPVと発がんについて

前回は発がん物質としての感染症・病原体について簡単に解説してきました。

Cancer Epidemiology (がんの疫学)(19)| 感染症と発がんについて今回は感染症と発がんについて簡単に解説していこうと思います。 2012年のデータですが、世界的には15.4%のがん患者(220万人)が...

この中で最も身近なものはピロリ菌とHPV(ヒトパピローマウイルス)ではないでしょうか。この2つを解説させていただければと思います。

ピロリ菌と胃癌

まずはピロリ菌と胃癌について解説していきましょう。

ヘリコバクターピロリは、発がん物質として最初に認識された細菌です。

ピロリ菌とがんの疫学

世界的にはピロリ菌感染患者は世界で6割ほどいると推定されています。その数、およそ44億人です。
途上国の10歳未満の小児の50%、先進国の成人の40-50%はピロリ菌に感染している可能性があります。

ピロリ菌に感染したからといって必ず胃癌になるわけではなく、感染者の1%ほどが胃癌に進展すると言われています。

ピロリ菌感染者の分布は以下の通りです:

(図は参考文献より)

途上国とアジアに多い印象ですね。一方で、アフリカとかは未知の地域も多いようですね。

こちらはピロリ菌の感染率と、がんの発症率をプロットした図です。日本(JPN)や韓国(KOR)を含み、ピロリ菌感染率が高い国は、胃癌発症率が高くなっています。

ピロリ菌と胃癌について

ピロリ菌と胃癌についてですが、non-cardina(胃上部以外)とcardina(胃上部)で分けて考えられています。

例えば、ピロリ菌感染とnon-cardinaでの胃癌のメタ解析結果は以下の通りです:

一方で、cardina(胃上部)におけるピロリ菌と胃癌は以下の通りで、相関は認められていません。

胃癌予防について

ピロリ菌の除菌が、胃癌発症の抑制になるか検討したメタ解析もあります。

ピロリ菌を除菌することで、胃癌のリスクを下げることができると考えられています。

蛇足かもしれませんが、胃癌予防はピロリ菌除菌以外にも、

  •  タバコをやめる
  •  アルコール摂取量を減らす
  •  フルーツや野菜をたくさん食べる
  •  塩分の多い食事を避ける

などがあります。

HPVとがんについて

Human Pappilomavirus (HPV)とがんについて解説していきます。

HPVは100種類以上あり、主に子宮頸癌、咽頭・喉頭癌などに関連しています。

HPV感染について

HPVによる感染症は、ほとんどが一過性のもので、自然消失します。一方で、HPVへの罹患率はそれなりに地域差があります。例えばアメリカのデータを見ると、

  •  若年女性の30-40%
  •  中年女性の17%

ほどが感染していたというデータもあるようです。

子宮頸癌の発症率を国別に見てみましょう:

こちらはWHOが2018年に発表したデータになりますが、子宮頸癌の発症率はアフリカの地域が低くなっています。一方で、オーストラリア、アメリカ、ヨーロッパの一部の地域は低くなっています。

こちらは致死率のデータになります。ほぼ発症率のデータと似たような傾向にあるでしょう。

HPVと発癌について

HPVが原因となる癌は子宮頸癌だけではありません。2011-2015年のデータ(アメリカ)を参照すると、以下の傾向にありした:

女性の場合、子宮頸癌が第1位ですが、肛門、外陰部の順です。

男性の場合は、中咽頭癌が第1位で、次いで肛門や陰茎となっています。

HPVのタイプと発癌について

IARCはHPVのタイプと発がんについて分類をしています。

リスク HPVのタイプ
低い
(Group 3)
6, 11
中等度
(Group 2A or B)
5, 8, 26, 30, 34, 53, 66, 67, 68, 69, 70, 73, 82, 85, 97
高い
(Group 1)
16, 18, 31, 33, 35, 39, 45, 51, 52, 56, 58, 59

FDAが承認したワクチンは3つあります:

  1. Gardasil
  2. Cervarix
  3. Gardasil 9

Cervarixに関しては、16と18の感染を予防する効果があります。
Gasdasilについては、16/18以外にも、6と11を予防する効果があります。

さらに、Gardasil 9に関しては、21, 22, 45, 52, 58と予防できるタイプを増やしています。

ワクチン タイプ
Cervarix 16, 18
Gardasil 6, 11, 16, 18
Gardasil 9 6, 11, 16, 18, 21, 22, 45, 52, 58

おわりに

今回は感染症とがんをテーマに、その例としてピロリ菌やHPVについて解説してきました。

次回は、B型肝炎やC型肝炎について説明できればと思います。

 

参考文献

  • Franceschi S, et al. Infectious agents. Part III. the Cause of cancer
  • WHO. Biological agent. Volume 10. A review of human carcinogen.
  • Plummer M, etal. Glocal burden of cancers arributable to infections in 2012: a synthetic analysis. Lancet global health 2016;4:e609-16

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。