前回は発がん物質としての感染症・病原体について簡単に解説してきました。
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この中で最も身近なものはピロリ菌とHPV(ヒトパピローマウイルス)ではないでしょうか。この2つを解説させていただければと思います。
ピロリ菌と胃癌
まずはピロリ菌と胃癌について解説していきましょう。
ヘリコバクターピロリは、発がん物質として最初に認識された細菌です。
ピロリ菌とがんの疫学
世界的にはピロリ菌感染患者は世界で6割ほどいると推定されています。その数、およそ44億人です。
途上国の10歳未満の小児の50%、先進国の成人の40-50%はピロリ菌に感染している可能性があります。
ピロリ菌に感染したからといって必ず胃癌になるわけではなく、感染者の1%ほどが胃癌に進展すると言われています。
ピロリ菌感染者の分布は以下の通りです:
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(図は参考文献より)
途上国とアジアに多い印象ですね。一方で、アフリカとかは未知の地域も多いようですね。
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こちらはピロリ菌の感染率と、がんの発症率をプロットした図です。日本(JPN)や韓国(KOR)を含み、ピロリ菌感染率が高い国は、胃癌発症率が高くなっています。
ピロリ菌と胃癌について
ピロリ菌と胃癌についてですが、non-cardina(胃上部以外)とcardina(胃上部)で分けて考えられています。
例えば、ピロリ菌感染とnon-cardinaでの胃癌のメタ解析結果は以下の通りです:
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一方で、cardina(胃上部)におけるピロリ菌と胃癌は以下の通りで、相関は認められていません。
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胃癌予防について
ピロリ菌の除菌が、胃癌発症の抑制になるか検討したメタ解析もあります。
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ピロリ菌を除菌することで、胃癌のリスクを下げることができると考えられています。
蛇足かもしれませんが、胃癌予防はピロリ菌除菌以外にも、
- タバコをやめる
- アルコール摂取量を減らす
- フルーツや野菜をたくさん食べる
- 塩分の多い食事を避ける
などがあります。
HPVとがんについて
Human Pappilomavirus (HPV)とがんについて解説していきます。
HPVは100種類以上あり、主に子宮頸癌、咽頭・喉頭癌などに関連しています。
HPV感染について
HPVによる感染症は、ほとんどが一過性のもので、自然消失します。一方で、HPVへの罹患率はそれなりに地域差があります。例えばアメリカのデータを見ると、
- 若年女性の30-40%
- 中年女性の17%
ほどが感染していたというデータもあるようです。
子宮頸癌の発症率を国別に見てみましょう:
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こちらはWHOが2018年に発表したデータになりますが、子宮頸癌の発症率はアフリカの地域が低くなっています。一方で、オーストラリア、アメリカ、ヨーロッパの一部の地域は低くなっています。
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こちらは致死率のデータになります。ほぼ発症率のデータと似たような傾向にあるでしょう。
HPVと発癌について
HPVが原因となる癌は子宮頸癌だけではありません。2011-2015年のデータ(アメリカ)を参照すると、以下の傾向にありした:
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女性の場合、子宮頸癌が第1位ですが、肛門、外陰部の順です。
男性の場合は、中咽頭癌が第1位で、次いで肛門や陰茎となっています。
HPVのタイプと発癌について
IARCはHPVのタイプと発がんについて分類をしています。
リスク | HPVのタイプ |
低い (Group 3) |
6, 11 |
中等度 (Group 2A or B) |
5, 8, 26, 30, 34, 53, 66, 67, 68, 69, 70, 73, 82, 85, 97 |
高い (Group 1) |
16, 18, 31, 33, 35, 39, 45, 51, 52, 56, 58, 59 |
FDAが承認したワクチンは3つあります:
- Gardasil
- Cervarix
- Gardasil 9
Cervarixに関しては、16と18の感染を予防する効果があります。
Gasdasilについては、16/18以外にも、6と11を予防する効果があります。
さらに、Gardasil 9に関しては、21, 22, 45, 52, 58と予防できるタイプを増やしています。
ワクチン | タイプ |
Cervarix | 16, 18 |
Gardasil | 6, 11, 16, 18 |
Gardasil 9 | 6, 11, 16, 18, 21, 22, 45, 52, 58 |
おわりに
今回は感染症とがんをテーマに、その例としてピロリ菌やHPVについて解説してきました。
次回は、B型肝炎やC型肝炎について説明できればと思います。
参考文献
- Franceschi S, et al. Infectious agents. Part III. the Cause of cancer
- WHO. Biological agent. Volume 10. A review of human carcinogen.
- Plummer M, etal. Glocal burden of cancers arributable to infections in 2012: a synthetic analysis. Lancet global health 2016;4:e609-16