- 『鼻水が出やすくなるお薬』
- 『痰のキレが良くなるお薬』
と説明されてよく処方されているカルボシステイン(ムコダイン®︎など)です。
カルボシステイン(ムコダイン®︎など)を内服すると、S-カルボキシメチルシステインが増加し、痰や分泌物の粘稠性が低くなり、痰を体外に排出しやすくなる効果があると言われています。
しかし、これらのメカニズムは健常なヒトで行われた研究結果ではなく、動物実験などで確認されたものです。
そこで、今回の研究では「健常な成人にカルボシステイン(ムコダイン®︎)を内服させると粘稠性の鼻水のクリアランス(排出)が改善するか?」を観ています。
研究の方法
今回の研究はイギリスのNottinghamにあるQueen’s Medical Centreという大学病院で行われました。
今回の研究では、
- チメロサール(有機水銀:thiomersal)を0.005%
- 99mTcと99mTcアルブミン(放射性同位元素識別)
- 0.9%生理食塩水
を含有する液体を使用しています。
この検査液を鼻に100μl噴射し、シンチグラフィーを使用して、排泄率を観察しています。
カルボシステイン(ムコダイン®︎)or プラセボは7日間連続で飲んでもらい、
- 内服前に検査
- 7日間内服
- 内服後に検査
を2セット繰り返します。
ランダム化クロスオーバー試験について
今回の研究ではランダム化クロスオーバー試験がされています。
基本はRCTと同じで治療(ムコダイン)をランダムに割りつけるのですが、最初に治療を受けた人は後でプラセボ(偽薬)を飲まされますし、その逆も行います。
グループ1 | グループ2 | |
クリアランスを計測:治療前 | ||
ランダム化 | ムコダイン | プラセボ |
クリアランスを計測:治療後 一定期間を空ける |
||
クリアランスを計測:治療前 | ||
クロスオーバー | プラセボ | ムコダイン |
クリアランスを計測:治療後 |
ランダム化クロスオーバー試験の利点・欠点
この研究の利点にはいくつか利点があります。
1つは同じ人で治療とプラセボの両方を計測できる点です。このため、その人の特徴(年齢、性別、人種など)を考慮しなくても良い点があります。
もう1つは統計学的な視点から、少ないサンプル数でも検定力を確保できる点にあります。
欠点としては、使用する薬などが長期間の持続性がない必要があります。
あとは、最初の治療で病気が軽快してしまったり、本人の特徴が変化してまうと、2回目に行うコントロールの治療にも影響してしまいます。
今回でいうと、最初に飲んだムコダインが、鼻粘膜の特徴を薬を投与した期間以外にも変化させてしまうと、のちのプラセボでの効果が正しく計測できなくなります(ムコダインの効果が残ってしまうため)。
研究結果と考察
20-22歳の男女5名が研究に参加しました。
鼻腔内に残った液体の割合(%)を計測しています。この割合が低いほどクリアランスが高いと言えます。
ムコダイン | プラセボ | |
治療前 | 55% | 56% |
治療後 | 55% | 51% |
治療の前後でクリアランスに変化はありませんでした。
こちらがムコダイン®︎(左)とプラセボ(偽薬)(右)の治療前後での鼻腔内のクリアランスを観ていますが、曲線がほぼ一致しています。
これは治療前後で変化がないことを示しています。
まとめ
今回の研究ではムコダイン®︎は鼻の通り(鼻腔内のクリアランス)を改善させることを証明できませんでした。
「鼻水・痰が出やすくなる」はずのムコダイン®︎ですが、実際にはそうではないのかもしれません。
ただし、今回の研究はあくまで健常人で行われたものであり、小児や成人の風邪や気管支炎などで使用すべきかは、他の臨床研究の結果を参照しつつ総合的に判断する必要があります。