- プロバイオティクス(整腸剤)は結局、小児の胃腸炎に効くのでしょうか?
- 様々な研究結果をまとめた資料はありますか?
これまで、プロバイオティクスに関する研究を沢山報告してきました。
統計学的な評価で小児の下痢に対して有効性を認めた研究が多かった反面、そうでない研究もありました。
様々な研究結果を網羅的に検索し、さらに結果を統計学的に統合して評価する研究として、システマティック・レビューとメタ解析があります。
小児の下痢とプロバイオティクスに関していうと、かなり沢山の研究が行われており、これをもとにメタ解析も行われていました。
研究の方法
今回の研究は、
- Cochrane Controlled Trials Register
- MEDLINE (1966-2010)
- EMBASE (1988-2010)
などを中心に、ランダム化比較試験を対象に検索しています。
治療に関しては、
- プロバイオティクス
- プラセボ
の2種類に分かれているものを対象としています。
アウトカムは、
- 下痢の期間(平均)
- 下痢の頻度
- 4日後の下痢の持続
などを対象に検討しています。
統計学的な評価にはランダム効果モデルを使用しています。この方法を少し詳しく知りたい方は、以下のリンクで解説しているので、参照されてください。
研究結果と考察
最終的に56の研究(RCT)で、合計8014人が対象となりました。
下痢の期間について
下痢の期間のforest plotは以下の通りです。(原著より拝借)
最後の太字のところが結果になりますが、下痢の平均時間は、プロバイオティクスを使用したグループの方が、1日ほど短くなっています。
- -24.76 (95%CI, -33.61 to -15.91)
その他のアウトカム
その他の結果をまとめてみました:
アウトカム | 差 or 比 | 95%CI |
3日以上の下痢 | RR = 0.62 | 0.56〜0.70 |
4日以上の下痢 | RR = 0.41 | 0.32〜0.53 |
2日目の下痢の頻度 | MD = -0.80 | -1.14〜-0.45 |
3日目の下痢の頻度 | MD = -0.63 | -1.18〜-0.07 |
内服を開始して数日後には、下痢の頻度が減り、下痢が長引く可能性も下げてくれているのが分かります。
サブグループ解析:菌株で
様々な菌株でサブグループに分けて解析をしているようです。
差 or 比 | 95%CI | |
Lactobacillus casei | ||
下痢の時間 | MD = -26.69 | -40.50〜-12.88 |
4日以上の下痢 | RR = 0.59 | 0.40〜0.87 |
下痢の回数 | MD = -0.76 | -1.32〜-0.20 |
Enterococcus LAB | ||
4日以上の下痢 | RR = 0.21 | 0.06〜0.52 |
Saccharomyces boulardii | ||
4日以上の下痢 | RR = 0.37 | 0.21〜0.65 |
Lactobacillus casei, Enterococcus, S. boulardiiに関しては、いずれも下痢の長期化を予防する効果がありそうな印象でした。
研究数がそこまで多いわけではないので、なんとも言えませんが、有効性の大きさは菌株によって異なるのかもしれません。
サブグループ解析:菌株を増やした方が良いか?
こちらでは、1菌株 vs. 2菌株以上で比較してみていきましょう。
1菌株 | ≥2菌株 | |
下痢の期間, MD | -23.95 (-35.57, -12.32) |
-21.23 (-30.38, -12.09) |
4日以上の下痢, RR | 0.45 (0.33, 0.60) |
0.29 (0.12, 0.73) |
下痢の頻度, MD | -0.79 (-1.21, -0.38) |
-0.77 (-1.53, 0.00) |
菌株の種類を増やしても、それほど変わらなそうな印象ですね。
強いて言えば、4日以上の下痢のリスクはより低下するのかもしれませんね。
サブグループ解析:菌株は多い方がいい?
菌株の量も研究毎に異なるので、こちらも考慮して解析されています。
- 低用量:1000億以下
- 高用量:1000億以上
と分けています。
低用量 | 高用量 | |
下痢の期間, MD |
-25.88 (-39.04, 12.72) |
-27.02 (-38.64, -15.39) |
4日以上の下痢 RR |
0.43 (0.29, 0.62) |
0.37 (0.12, 1.17) |
day2の下痢の回数 MD |
-1.01 (-1.61, 0.41) |
-0.99 (-1.39, -0.60) |
あまり量を追加しても変わらなそうな印象ですね。
サブグループ解析:ロタウイルス胃腸炎に限定したら?
ロタウイルス性胃腸炎に限定してみると、以下のようになります。
- 下痢の期間:-29.14時間(-42.07, -16.20)
- 下痢の頻度:-1.25回(-2.09, -0.41)
全体の結果より、若干ですが、効果が強く出ている印象ですね。
サブグループ解析:外来患者に限定したら?
外来に限定してみると、以下のようになります。
- 下痢の期間:-42.81時間(-55.07, -30.56)
一方で、入院患者に限定してみると、以下のようになります。
- 下痢の期間:-20.90時間(-31.44, -10.35)
意外と、外来の方が下痢の期間を短縮させているようでした。
考察と感想
プロバイオティクスが過去、非常に多くの研究がされているのが分かります。小児の臨床研究で56個もメタ解析で集まるなんて、そうそうないことだと思います。他の風邪薬を見ると、その研究の数は、よくてこの10%くらいです。
プロバイオティクスの市場規模を反映しているのでしょうか。
残念な点としては、日本の研究がほぼないことでしょうか。日本でも頻繁に処方されている薬ですので、しっかりとRCTをした方が良いと考えています。
このメタ解析で決着はついたかと思いきや、最近はNEJMなどをはじめ、さらに多施設での研究結果が出ています。
これらの研究結果では、外来患者においてプロバイオティクスの有効性ははっきりとは出ていませんでした。なんとも悩ましい結果ですね。
2011年から8年以上経っていますし、そろそろ新しいメタ解析が報告されても良い時期とは思っています。
期待して待ちましょう。
まとめ
系統レビューとメタ解析の結果をまとめると、小児の胃腸炎に対しプロバイオティクスは
- 下痢の期間を1日ほど短縮させる
- 菌株によって、効果はそれほど変わらなさそう
- 菌数を増やしても効果は変わらなさそう
- ロタウイルス胃腸炎の方が有効性は大きそう
といった結果でした。
プロバイオティクスは市販薬としても販売されています。例えば、こちらの薬は3種類のプロバイオティクスが入っており、そのほかの余分な薬(止瀉薬など)は入っていませんので、比較的安全と言えるでしょう。
特に乳幼児が下痢を起こした時は、お尻が荒れてしまうことがあります(おむつ皮膚炎)。外来ではよく亜鉛華軟膏を処方していますが、こちらも市販品で実は販売されています。