前回、特に12歳未満の小児へのコデイン投与は、世界的にも禁止する流れになっている点を説明してきました。
例えば、アメリカでは術後の疼痛、咳止めとして処方したコデインで呼吸抑制や死亡した例が複数報告され、2010年代に入り禁止する方向でいます。
日本でも同様の傾向で、2019年に一般の市販薬として、小児にコデインを禁止とする方針になっています。
アメリカでのデータになりますが、耳鼻科でのコデイン処方が多く、特に扁桃摘出・アデノイド摘出術後にコデインが処方されているようです。
日本の実情を私は詳しく知りませんが、ひょっとしたら同じようなプラクティスがされているかもしれません。
コデイン使用による呼吸抑制や死亡は最悪のシナリオですが、それ以外にも小児への使用で副作用がどの程度出るかを検討した研究を探したところ、こちらの論文が見つかりました。
2014年にLaryngoscopeという雑誌に掲載された研究になります。
研究の背景
かつて、コデインは手術後の疼痛管理の薬として処方されていました。その理由として、
- 過鎮静による呼吸抑制のリスクが低い
と言われていた背景もあります。
しかし、アメリカでコデイン使用後の死亡例が複数報告された経緯があり、FDAはこの安全性の謳い文句に疑問を投げかけられています。
コデインの代謝能力は個人でばらつきがある
とある人にはあまり危険性がなく、そうでない方にとって危険であるコデインの原因として、コデインの代謝能力にばらつきがある点が挙げられます。例えば、
- 代謝能が低い
- 代謝能が中等度
- 代謝能が高度
- 代謝能が超速攻型
の4つのグループに分けられます。
コデインは代謝されるとモルヒネになり、呼吸抑制を来す可能性があります。このため、代謝の早い超速攻型(Ultra-rapid metabolizers)が最も危ないのではないかと言われています。
研究の目的
しかし、術後の疼痛などを目的に処方されたコデインの有害事象について検討した研究は少なく、さらにコデインの代謝能別に見た小児の研究は限られています。
そこで、今回の観察研究が行われました。
研究の方法
今回の研究はシンシナティ小児病院を中心として、前向きの観察研究が行われました。
対象の患者は、
- 6−15歳で閉塞性睡眠時無呼吸(OSAS)のある小児
- 扁桃摘出後
- CYP2D6阻害薬は処方されていない
肩を対象に行われました。
観察した項目
観察した項目としては、
- CYP2D6の遺伝子
- 術後の疼痛としてコデイン+アセトアミノフェンの処方
- 痛みの程度(0〜100: VSA)
- コデインの副作用
を見ています。副作用は、めまい、頭痛、嘔吐、口渇、かすみ目、発疹を見ています。
研究の結果と考察
249人の候補者から、134名の小児が対象となりました。
全ての小児が術後、最低1度はコデインを使用していました。
このうち、106名(79%)はコデインの副作用を認めていました。副作用は
- 嘔吐
- めまい・ふらつき
の順に多かったようです。
コデインの副作用が起こりやすい因子
このうち、45kg以下の白人のみを対象に、コデインによる副作用の起こりやすい因子を探索しましたが、
- 代謝遺伝型
- 女児
- 術後初日
に統計学的な有意差がありました。
また、鎮静が起こりやすかったのは、
- 術後初日
- 術後二日目
でした。遺伝型と過鎮静の相関が認めませんでした。
論文の感想
大事な頻度やリスク比・オッズ比などが抜けており、論文の報告の仕方としては少し違和感のある研究でした。
しかし、内容的には非常に意味のある報告でして、1つは8割近くにコデインによる副作用を認めていた点があります。
軽い副作用がほとんどと予測していまし、今回の研究は鎮痛を目的に処方されたものですが、この副作用の頻度を考えると、やはり咳止めとして処方するのは避けたほうが良いのかもしれません。
また海外の研究ですから「日本人と遺伝型が違うから」という議論にもなると思います。
確かにそうなのですが、過鎮静の起こりやすさは、必ずしも代謝型に依存しない可能性が示唆されています。
このため、海外と日本での人種差のみで、コデインを小児に使用する正当化をするのは難しいと思いました。
まとめ
今回の研究では、コデイン使用後の小児の8割ほどに副作用を認めていました。
一般的な副作用が起こりやすいのは、代謝型、女児、術後すぐが多かったようです。
また、代謝型は必ずしも鎮静の程度と相関しない可能性が示唆されています。