古くから「体が冷えると風邪をひく」という都市伝説がありますが、これは本当なのでしょうか。今回は、この仮説を検証したRCTをご紹介します。意外な結果でした。
- 寒冷への曝露がかぜ症状の原因であるかを検証したRCTです。
- 寒冷曝露をしたグループの方が、数日後以降の風邪症状のスコアは高い傾向にあったようです。
Claire Johnson, Ronald Eccles, Acute cooling of the feet and the onset of common cold symptoms, Family Practice, Volume 22, Issue 6, December 2005, Pages 608–613,
2005年にUKから公表されたようです。
足の寒冷への曝露と感冒症状の発症[UK編]
研究の背景/目的
体表を冷やすと感冒症状が発現するという俗説があるが、これまでの臨床研究では、感冒ウイルスの感染感受性に寒冷曝露が影響することは証明されていない。
本研究では、足の急性冷却が感冒症状の発症を引き起こすという仮説の検証を行う。
研究の方法
180人の健康な被験者を、足を冷やす処置と対照処置のいずれかを受けるように無作為に割り付けた。すべての被験者に、処置の前と直後、および1日2回、4/5日間、感冒症状を点数化するよう依頼した。
研究の結果
冷やした被験者90人中13人が処置後4-5日に風邪をひいていると報告したのに対し、対照被験者では90人中5人であった(P = 0.047)。
冷やすことが症状スコアの急性変化を引き起こすという証拠はなかった(P = 0.62)。
冷やした後の1~4日目の平均総症状スコアは5.16(±5.63 s.d. n = 87)だったのに対し、対照群では2.89(±3.39 s.d. n = 88)だった(P = 0.013).
風邪をひいたと答えた被験者(n = 18)は、風邪をひかなかった被験者(n = 162)と比較して、毎年、有意に多くの風邪に悩まされたと報告した(P = 0.007)。
結論
足の急性冷え性は、冷え性を持つ被験者の約10%に感冒症状の発現を引き起こす。
症状発生とあらゆる呼吸器感染症との関係を明らかにするために、さらなる研究が必要である。
考察と感想
風邪の症状の発現は、寒い環境にさらされることと関連づけられ、衣服や足、髪が濡れることが風邪の発症に直結するという言い伝えがあります。
過去300年の臨床文献によると、体表が寒冷に急速に曝露することによって風邪の症状が出るという報告が多く、歴史的にもこれが風邪の直接の原因であると一般に考えられてきたようです。
しかし、風邪ウイルスの鼻腔内接種と寒冷曝露期間を含む研究では、寒冷暴露が風邪ウイルスへの感染感受性に影響を与えることは証明されていないようです。
現代のウイルス学の教科書では、寒冷曝露と風邪の発症の因果関係を誤った都市伝説として退けているが、この考え方は非常に広く、長く続いているため、この考えを妥当でないと完全に否定することは困難であり、今回の研究が行われたようです。
2グループの症状の経過を見るとわかりやすいかもしれません;
Day | 寒冷 | 対照 |
1 | 0.57 (1.12) |
0.32 (0.70) |
2 | 1.38 (1.84) |
0.73 (1.11) |
3 | 1.28 (1.48) |
0.48 (0.77) |
4/5 | 1.93 (2.83) |
1.36 (1.95) |
合計 | 5.16 (5.68) |
2.89 (3.39) |
明らかに寒冷曝露をしたグループの方が、かぜの症状スコアが高いのがわかります。
この研究デザインですと、盲検化が難しく、バイアスを招いている可能性はありますが(outcome measurement error with respoct to exposure)、それでも興味深い結果です。
まとめ
寒冷への曝露がかぜ症状の原因であるかを検証したRCTです。
意外ですが、寒冷曝露をしたグループの方が、数日後以降の風邪症状のスコアは高い傾向にあったようです。
以下の論文も面白そうなので、一度読んでみようと思います。
Dowling HF, Jackson GG, Spiesman IG, Inouye T. Transmission of the common cold to volunters under controlled conditions. II. The effect of chilling of the subject upon susceptibility.Am J Hygiene.1958;66:59–65.
Douglas RGJ, Lindgren KM, Couch RB. Exposure to cold environment and rhinovirus common cold. Failure to demonstrate effect.New Engl Med J1968;279:742–747.
Dr. KIDの執筆した書籍・Note
絵本:めからはいりやすいウイルスのはなし
知っておきたいウイルスと体のこと:
目から入りやすいウイルス(アデノウイルス)が体に入ると何が起きるのでしょう。
ウイルスと、ウイルスとたたかう体の様子をやさしく解説。
感染症にかかるとどうなるのか、そしてどうやって治すことができるのか、
わかりやすいストーリーと絵で展開します。
(2024/12/21 11:30:52時点 Amazon調べ-詳細)
絵本:はなからはいりやすいウイルスのはなし
こちらの絵本では、鼻かぜについて、わかりやすいストーリーと絵で展開します。
(2024/12/21 13:39:04時点 Amazon調べ-詳細)
絵本:くちからはいりやすいウイルスのはなし
こちらの絵本では、 胃腸炎について、自然経過、ホームケア、感染予防について解説した絵本です。
(2024/12/21 13:39:05時点 Amazon調べ-詳細)
医学書:小児のかぜ薬のエビデンス
小児のかぜ薬のエビデンスについて、システマティックレビューとメタ解析の結果を中心に解説しています。
また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
1冊で2度美味しい本です:
(2024/12/21 02:10:50時点 Amazon調べ-詳細)
小児の診療に関わる医療者に広く読んでいただければと思います。
医学書:小児の抗菌薬のエビデンス
こちらは、私が3年間かかわってきた小児の抗菌薬の適正使用を行なった研究から生まれた書籍です。
日本の小児において、現在の抗菌薬の使用状況の何が問題で、どのようなエビデンスを知れば、実際の診療に変化をもたらせるのかを、小児感染症のエキスパートの先生と一緒に議論しながら生まれた書籍です。
noteもやっています