今回の研究は、7カ国の公的機関の情報を集め、小児の新型コロナウイルス感染者数、死亡者数、他の死因との比較をしています。
- 新型コロナウイルスに感染した小児のデータを集積
- 先進国7カ国では、4万人以上感染し、死亡者数は40人ほど。
- 致死率は0.1%ほどと予想されている。
7カ国のデータを集めて行われた報告です。
研究の概要
背景
新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 大流行を抑制するため 「封鎖」 が行われました。その後、社会を準正常に戻すという課題に取り組んでいます。
政策立案者、一般市民、そして特に保護者たちは、当然のことながら、保育所や学校の再開がもたらす影響を心配している。
その中で、ヨーロッパでは、ノルウェー、デンマーク、フランス、ドイツがすでに学校を再開しました。
英国政府は、2020年6月1日から学校再開を実施する意向を表明し、市民の間に大きな不安と論争を巻き起こしました。
とりわけ、早期再開に反対する教員委員会からの意見が分かかれているようです。
これ以外にも、社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)を置く措置によって子どもたちが 「二次的被害」 を受けたと述べ、子どもの権利に関する国連条約との整合性に疑問を呈している方もいるようです。
子どもたちに家を出てもらい、学校教育を再開させることについての決定は、最終的には価値判断になります。
しかし、新型コロナウイルスから子どもたちへの現在のリスクを疫学的に理解することは助けになるのかもしれません。
方法
著者らは、 7カ国の公的な政府情報源から、2020年の5月8〜19日までの新型コロナウイルスによる死亡に関するデータを検討しました。
過去5年間 (2015~2019年) のインフルエンザ以外の他の原因による死亡推定数をGlobal Burden of Disease estimates から得た。
それぞれの指標の比較を助けるために、 3か月の期間を反映するように死亡数を調整ました。
結果
(表は論文より拝借)
この期間に、これら7カ国合計で、0~19歳(米国は0〜14歳)の確定症例42,846例出会った。
このうち、44例の死亡が報告された。
これは、意図しない傷害による死亡者数(1056人)および下気道感染(インフルエンザ)による死亡者数(308人)、さらに全ての原因による推定死亡者数(13,200人)と比較しても少ない。
中国からの初期のデータによれば、(すでに予防接種を受けている)インフルエンザと比較しても、新型コロナウイルスによる小児の死亡者数は少ない。
結論
私たちの分析は、親、教師、政策立案者が重要な決定を下す一助となり、小児の新型コロナウイルス感染症に関して、安心を感じることができるかもしれない。
政治指導者、地域社会、臨床医、そして親たちは、子どもを家庭にとどめ、社会的に孤立させている主な理由は、大人を守るためであることを認識すべきです。
感想と考察
上述した「背景〜結論」は私の個人の意見ではなく、この論文の執筆者らの意見です。
新型コロナウイルスに関しては、流行の比較的早い段階でロックダウンしたため、小児には流行せずに済んだのではないでしょうか。もちろん高齢者や合併症のある方々を守る役割もあったとは思いますが、未知のウイルスから子供達を守る行為でもあったわけです。これを、「大人を守るために、子供が犠牲になった」という論調で執筆すべきではないと思いました。
また、10万人あたりの死亡率を推定していますが、これも少し比較の仕方を間違えている気がします。結局のところ、新型コロナウイルスは一部の集団のみに感染しているわけで、毎年流行するインフルエンザを死亡者数だけ比較してもあまり意味がありません。
結局、何人感染して何人死亡したのか、特にこの分母の数字をきちんとするべきでしょう。新型コロナウイルスに関しては、このデータによると、42,846名が感染して44名が死亡しています。この場合、致死率は0.1%ほどであるのが分かります。
インフルエンザはどうでしょうか。小児のインフルエンザの致死率は0.1%よりもっとずっと低いのではないのでしょうか。
数字の背景を理解せず、「インフルエンザより軽症。よって学校閉鎖は間違っている・意味がなかった」のような論調は、あまりに単純化しすぎており、ミスリードしかねないと思いました。
まとめ
今回の報告、7か国(米国・英国・イタリア・ドイツ・スペイン・フランス・韓国)の公的な情報をもとに、感染者・死亡者数をまとめ、他の死因による死亡数等と比較しています。
本文は偏った見解が多く、一部、統計学的な解釈の間違いもあり、ややミスリードしかねない内容かと思いました。
(2024/11/19 20:58:44時点 Amazon調べ-詳細)
Dr. KIDが執筆した医学書:
小児のかぜ薬のエビデンス
小児のかぜ薬のエビデンスについて、システマティックレビューとメタ解析の結果を中心に解説しています。
また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
1冊で2度美味しい本です:
(2024/11/20 00:57:26時点 Amazon調べ-詳細)
小児の診療に関わる医療者に広く読んでいただければと思います。
小児の抗菌薬のエビデンス
こちらは、私が3年間かかわってきた小児の抗菌薬の適正使用を行なった研究から生まれた書籍です。
日本の小児において、現在の抗菌薬の使用状況の何が問題で、どのようなエビデンスを知れば、実際の診療に変化をもたらせるのかを、小児感染症のエキスパートの先生と一緒に議論しながら生まれた書籍です。
Noteもやっています