小児科外来の受診理由で多いのは呼吸器感染症(RTI)でしょう。
ほとんどの呼吸器感染症はウイルス性であり、抗生物質を投与しても症状の経過はほとんど変わらず、自然軽快します。
一方で、抗生物質が頻繁に処方されるケースがありますし、保護者の方々から処方のリクエストがあるのも事実でしょう。
抗生物質が有益無害な薬ならば処方も許容されるかもしれませんが、過剰に使用すると耐性菌の形成、副作用のリスク上昇につながります。
また、同様の本来は不要であるエピソードにおいても、同じように抗生物質の処方をするパターンのニーズが高まってしまう懸念もあります。
今回は、抗生剤の処方のタイミングを変えることで、合併症や症状に影響がないかを検討した報告をご紹介します。
- 小児の気道感染症において、抗生剤の処方のタイミングを検討した研究
- 抗生剤の処方を遅らせたとしても、症状の経過や合併症のリスクは変わらなかった
2021年に公表された論文です。
小児の呼吸器感染症に対する抗生物質の遅延処方の方針は有益か?
研究の背景/目的
合併症のない呼吸器感染症の小児において、抗生物質遅延処方(DAP)の有効性と安全性を、抗生物質即時処方(IAP)および抗生物質無処方(NAP)と比較して評価することを目的に、本研究が行われた。
研究の方法
3種類の抗生物質処方方針を比較するランダム化比較試験が行われた:
- 処方を遅らせる
- すぐに処方
- 処方しない
参加者は39のプライマリーケアセンターに通院している小児で、合併症のない急性呼吸器感染症のケースとした。
主要アウトカムは症状の持続時間と重症度であった。
副次アウトカムは抗生物質の使用、親の満足度、親の信念、プライマリケアの追加受診、30日後の合併症であった。
研究の結果
合計で436人の小児が解析に含まれた。
重度の症状の平均(SD)持続時間は、統計的に有意な差はなく、
- IAPで10.1(6.3)
- NAPで10.9(8.5)
- DAPで12.4(8.4)
であった(P = 0.539)。
いずれの症状についても、最大の重症度の中央値(分かれる範囲)は3群で同様であった(中央値[分かれる範囲]スコアは3[2-4]であった;P = 0.619)。
抗生物質の使用は、
DAP(n = 37 [25.3%])およびNAP(n = 17 [12.0%])と比較して、IAP(n = 142 [96%])で有意に高かった(P < 0.001)。
合併症、プライマリケアへの追加受診、満足度はすべての戦略で同様であった。消化器系の副作用はIAPの方が高かった。
結論
DAPを受けた合併症のない呼吸器感染症の小児では、NAPやIAPと比較して症状の持続時間や重症度に統計学的に有意な差は認められなかった
しかしながら、DAPは抗生物質の使用量と消化器系の副作用を減少させた。
考察と感想
対象となったのは2〜14歳の小児のようです。
遅延型抗生剤処方の方針に割り振られた子供たちには、小児科医が親に抗生物質の処方箋を渡し、以下のような場合にのみ抗生物質の投与を検討するように勧めていたようです:
- 急性中耳炎、咽頭炎、鼻副鼻腔炎、急性気管支炎について、それぞれ症状が出てから4日、7日、15日、20日を経過しても気分が良くならなかった。
- 子供の体温が24時間後に39℃を超えていた場合、または38℃であっても48時間後には39℃になっていた場合。
- 子供の気分がかなり悪くなった
保護者には、必要だと感じた場合や、抗生物質を服用しても悪化したと感じた場合には、医師のもとに戻ることを検討するように言われていたようです。
まとめ
スペインにおいて、抗菌薬の処方方針の違いが、抗菌薬の使用率や合併症などに影響があるか検討しています。
抗菌薬の処方を遅らせる方針は、合併症のリスクを増加させることなく、抗菌薬の使用率に影響を与えなかったようです。
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